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*砂漠にホスピタリティを見た

カイロを離れて、砂漠に出かけるとほっとする。空気はきれいだし、なにより静かである。たまに砂漠で過ごすと、耳も目も心もすっかり洗われるような気がする。

あるとき友人たちと西方の砂漠に出かけ、人工湖のほとりにある質素なキャンプに泊まった。電気も水も通じていない砂漠のまんなかで、客もわれわれ以外にはいなかった。

夜になり、湖のほとりで火を焚いた。月のない晩で、風が砂漠を吹きわたる音しか聞こえない。われわれは火を囲んで座っていた。薪が燃えつき、仄かな赤みをとどめて呼吸する熾き火を、とろとろした気分で見つめていた。こういうのはいいものである。

そのときである。急に背後が煌々と明るくなった。キャンプのエジプト人スタッフが自家発電式のサーチライトをわれわれに向けている。たき火が消えそうなので、親切心からライトをつけてくれたらしい。しかし、ここはライトを消してほしいとお願いする。どうしてだ、と訊くので、たき火を楽しんでいるんだと答える。スタッフは、ふーんとうなずいて、ライトを消した。闇が戻ってきた。

しばらくすると、さっきのスタッフがまた後ろにやってきた。手に缶のようなものをもっているので、なにか火で炙る料理でもしたいのかなと思って場所を空けてやると、スタッフはその缶の中の液体を熾き火にバッとかけた。そのとたん、熾き火がボワッと音をたて、1メートルほどの炎が立ちのぼった。われわれは驚いて飛び上がった。

「いったい、いま、なにしたの?」

「ベンジーン」スタッフは得意げにいった。

ベンジーンとはガソリンのことだ。たき火が消えそうなので、気をきかせて火を燃え上がらせてくれたらしい。

「こうすればたき火が明るくなる」

もっともである。気持ちはうれしい。しかし、さらにかけようとするので、それを押しとどめる。どうしてだ、と訊くので、暗いたき火が好きなんだと答えると、彼はふーんとうなずいた。ちょっと悲しそうだった。

またしばらくすると、さっきのスタッフが後ろにテーブルを運んできた。なんだか、いやな予感がした。予感は的中した。彼はいったん母屋の方に戻ると、大きなラジカセを抱えてやってきた。おまえたちが今日来るというので、新しくバッテリーを買っておいたんだといいながら、彼はラジカセにテープを入れ、得意げにプレイボタンを押した。

 

*後記

2005年夏、この砂漠の湖のほとりをふたたび車で通った。灰褐色の砂の広がりの中に、青い湖が白昼夢のように浮かんでいた。
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