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*貴公子がいっぱい

夜遅い時間、ジャン・イヴ・ティボーデがビル・エバンスの曲を弾いているアルバムをよく聴く。ティボーデはもともとドビュッシーやラベルを得意とするフランス人ピアニストで、そっちのほうの演奏もとてもいい。
月の光~ドビュッシー・ピアノ作品集

ところで、このティボーデだが、この前、雑誌の宣伝を見ていたら「ピアノの貴公子、ティボーデ」と書いてあった。やや!? ピアノの貴公子といえば、てっきりリチャード・クレイダーマンを指すとばかり思っていたので、その称号がティボーデに移ってしまったのかと思って、やや焦った。
<COLEZO!TWIN>リチャード・クレイダーマン・オリジナル・ヒット

その後、大きなCD店のポップ広告など見ていたら、ピアノの貴公子はほかにもいるらしい。一時期ブームになったブーニンもそうみたいである。

ブーニンやティボーデと、リチャード・クレイダーマンを同列に論じるのはかなり無理があると思うのだが、貴公子という言い方がかならずしもリチャード・クレイダーマンのようであることを意味しているわけではないのだろう。最近はスティーブ・レイマンとか、マノロ・カラスコとか、よくは知らないが、ピアノの貴公子と呼ばれる人物はいろいろいるようである。

いったい貴公子と呼ばれる条件はなんなのか。辞書によると、貴公子とは「身分のある家の若い男子」という意味だが、不思議なのは、いちどこの称号がついてしまうと、そのあと年をとっても、永遠に貴公子のままだということである。リチャード・クレイダーマンが白いスーツにおかっぱ頭で出てきたのは、もう20年くらい前だけれど、20年たった今、相変わらず白いスーツにおかっぱ頭のままである彼が、ピアノの貴公子からピアノの王様になったという話は聞かない。

ところで、日本人の場合、貴公子の条件は、ネスカフェ・ゴールドブレンドのCMに出たかどうかというあたりがポイントなのではないか。たとえば狂言の野村萬斎と和泉元彌、バレエの熊川哲也、オペラの錦織健などがそうだ。しかし、雅楽界の貴公子と呼ばれている東儀秀樹は、まだあのCMには出ていないはずだ。それでも彼を貴公子と呼んで差し支えないのか。判断のむずかしいところである。
かまいたちの夜2 - 海の向こうのさがしもの

ともあれ、こうして見てみると、いろんなところに貴公子がいる。試しに、インターネットで「○○界の貴公子」というキーワードで検索してみたら、出るわ出るわ、なんと2000件以上もヒットした。

メジャーなところをいくつかあげると、フランス料理界の貴公子(フィリップ・バトンほか)、テクノ界の貴公子(クリスチャン・スミスほか)、プログレ界の貴公子(エディ・ジョブソン)、落語界の貴公子(桂春雨ほか)、テニス界の貴公子(松岡修造ほか)、文壇の貴公子(島田雅彦)、政界の貴公子(鳩山由起夫)などなど。なかには疑問の残るものもあるが。

音楽系の場合、楽器ごとに、ギターの貴公子(渡辺香津美ほか)、ヴァイオリンの貴公子(中西俊博ほか)、シンセサイザーの貴公子(ジャン・ミシェル・ジャールほか)、オーボエの貴公子(宮本文昭ほか)、クラリネットの貴公子(赤坂達三)というふうに、それぞれ貴公子がいることもわかった。貴公子だけを集めてオーケストラが作れそうだ(ただし、ドラムの貴公子というのはいなかった。打楽器は貴公子にふさわしくないらしい)。

マイナーどころになると、このかぎりではない。占星術界の貴公子、大学受験界の貴公子、クワガタ界(?)の貴公子、霊界の貴公子、ミニカー界の貴公子、大食い界の貴公子、ラーメン界の貴公子などというのもいて、要するにありとあらゆる細分化された分野に貴公子がいることがわかった。

では、こうした並みいる貴公子の中で、ジャンルを越えて貴公子の中の貴公子はだれなのか。やはりリチャード・クレイダーマンなのか。

そこでふたたびインターネットの出番だ。検索エンジンのキーワード欄に「貴公子」という語と、名前(たとえば「リチャード・クレイダーマン」)を入れて、絞り込み検索をかけてみる。その結果、ヒット数の多かった貴公子ベスト10を以下に挙げる。

10位 藤原道山(尺八界の貴公子) 17件
  9位   溝口肇(チェロ界の貴公子) 18件
  8位   和泉元彌(狂言界の貴公子) 23件
  7位 鏡リュウジ(占星術界の貴公子) 29件
  6位 パスカル・ラファエル(バレーボール界の貴公子) 43件
  5位 野村萬斎(狂言界の貴公子) 57件
  4位 熊川哲也(バレエ界の貴公子) 78件
  3位 リチャード・クレイダーマン(ピアノの貴公子) 109件
  2位 東儀秀樹(雅楽界の貴公子) 174件
  1位 広瀬光治(ニット界の貴公子) 332件

やはり貴公子は音楽系が多い。日本のページが対象なので、たとえばチェロの貴公子でもヨーヨー・マ(2件)を溝口肇が上回るのは仕方あるまい。
yours

スポーツ界から唯一ベスト10入りしたのはパスカル・ラファエル。サッカー界の貴公子はベッカムとレオナルドで票が割れ、いずれもベスト10入りは果たせなかった。野球界では日米ともに貴公子は不在。野球は貴公子にふさわしくないスポーツなのかもしれない。占星術界では鏡リュウジの一人勝ち。占いという怪しげな世界に、知性と癒しを取り入れたあたりがポイントかもしれない。外国人トップはやはり本命リチャード・クレイダーマン。ベテラン貴公子の意地を見せてくれた。

しかし、いちばん驚いたのは、リチャード・クレイダーマンや東儀秀樹に倍近くの差をつけて貴公子界のトップに立った広瀬光治という人物である。寡聞にして、ぼくはこの方を知らなかったのだけれど、NHKの「おしゃれ工房」という番組に出演されたりしていて、ニットデザイナー界ではたいへん人気のある方なのだそうだ。
広瀬光治のパーティーニット

写真を見ると、う〜ん……なるほど、これが日本の貴公子界の頂点に立つ顔なのか。どことなく及川光博というタレントに似ている。年齢を見ると40代後半である。しかし、リチャード・クレイダーマンだって、もう50過ぎなのだから、貴公子に年齢は関係ないのだろう。そんなわけで、日本の貴公子界の貴公子は広瀬光治さんに決定!
 

*後記

ここに記したのは2002年春の貴公子ランキング事情である。その後、ネット情報は爆発的にふくれあがり、貴公子のヒット数も飛躍的に増えた。その結果がどうなったかは、この4年後に書いた「ますます貴公子がいっぱい」を参照のこと。

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