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*ここ掘れ、わんわん

動物が主人公だったり、人間の言葉をしゃべったりする話が、昔からあまり好きではない。

その最たるものにドリトル先生シリーズがあるが、イヌやオウムならいざしらず、クラゲやカタツムリのような、どう見ても意識の暗そうな生きものの言葉までわかってしまうという世界観が、どうしても解せなかった。

だいたいクラゲやカタツムリは、言葉というかたちで思考を展開しているのだろうか。いや、そもそも思考というものが存在するのだろうか。快・不快といった傾向はあるだろうが、それは言葉にはならないのではないか。

あるいはドリトル先生は、じつは動物の言葉なんてわからないのだけど、わかったふりをしているだけなのかもしれない。仮に、いっさいが、自分は動物の言葉がわかると主張するドリトル先生の妄想であったとしよう。そうであっても、この物語は十分成立する。

どういうことか? たとえば、ぼくがカメの言葉がわかるといったとしよう。カメの水槽に耳をあて、ふんふん、わかった、餌がほしいんだね、といいながら餌をやる。それを食べないので、また水槽に耳をあて、なになに、この餌じゃイヤだというのか、贅沢だねえ、えっ、しばらく寝たいって、じゃあ、勝手にしなさい、というようなやりとりをしていたとしよう。その様子をそばで見ていた人が、ぼくがカメの言葉なんかわからないと証明することは論理的には不可能なのである。

これ以上つっこむと話がややこしくなるので、ここまでにする。こんなことを書いたのは、最近、ドリトル先生を地でいくような道具が開発されたというニュースを聞いたからである。夏にタカラから発売される予定の「バウリンガル」という装置である。これは首輪のようにイヌの首に付け、犬の鳴き声を声紋分析して、その意味するところを液晶モニターに言葉で表示するのだという。
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実物を見てないので、なんともいえないが、鳴き声に応じてモニター上には「やったね、楽しいね」といったような、きわめて現代的な翻訳語が表示されるらしい。メスだと「やったわね、楽しいわ」となって、老犬だと「でかしたぞ、愉快じゃ」となるのかどうかは知らない。

いずれにしても、イヌの鳴き声を「翻訳」してイヌとの、よりいっそう親密なコミュニケーションを図るというものらしいが、そういうお題目は明らかにフィクションでしかない。要は、本来言語化できないものを、無理やり都合よく言語にしてしまうことで、相手をコントロールし、コミュニケーションを図っているという安心、幻想を得たいのである。

イヌでもカメでも人間でもそうだが、ときに生き物はまったく予期しないメッセージを発する。そんなとき、人間は不安になる。そのとき、そうしたわからないメッセージに、無理やり言葉を与えてしまえば楽になる。言葉にすることによって、本来の混沌は失われ、脅威も減じてしまう。

混沌を避け、なんでもかんでもマニュアルに沿って紋切り型に解釈する。それによって軋轢や摩擦を回避するという方法は、じつはこれからの時代にぴったりなのかもしれない。

そこで考えた。人間の赤ん坊に「オギャリンガル」という装置を付けるのだ。泣き声に応じて「ミルクがほしいよ」とか「オムツをかえて」といったメッセージがモニターに表れるようにする。

親孝行モードにすると、赤ん坊がどんなに泣き叫ぼうと、「とくに理由はないの。うるさいけど、がまんしてね」というメッセージが出る。子育てに悩むお母さんに朗報である。

案外、売れるかも知れない。しかし、ほんとうに、そんなものが売れてしまう世の中なんて、どうも、なんだかなあ……。

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