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カトウ様! なんとかおっしゃって

家にいると、いろんな勧誘の電話がかかってくる。エアコンの掃除、投資のすすめ、新しい電話サービスの案内、家の掃除、新築マンションの案内からお墓の分譲まで、つぎからつぎへと、いろんな電話がかかってくる。メールの多くが援助の申し出なのにくらべて、電話ときたら金を払えというものばかりである。少しはメールを見習えと思う。

ある朝、8時半頃だったか、電話が鳴ったので受話器をとると、すすり泣くような声がする。

「もしもし」

「ぐす、ぐす(鼻をすする音)、オレ……人はねちゃった」

「……?」

「オレが悪いんだよ、脇見運転していて……スピードは出ていなかったんだけど、駐車していた車にぶつけちゃって……ぐす、ぐす」

起き抜けだったので頭が働かない。ぶつけた? だれだ? 弟か? いや、事故起こしたからといって泣いて電話かけてくるようなやつじゃないよなあと、あれこれ考えているうちに、ぴんときた。

ひょっとして、これが話題の振り込め詐欺というものではなかろうか。だとしたら、大歓迎である。いちどどんなものか、ぜひ経験してみたかったのだ。はやる気持ちを抑えつつ、さぞかしショックを受けたような声をよそおって、確認の質問を投げかける。

「ほんとうか! それでおまえ無事なのか? サトコさんはいっしょじゃなかったのか?」

「えっ?……オレは無事だよ」

「そうか! よかった。サトコさんも無事なんだな?」

「ああ……オレ一人だったから……」

「じゃあ、サトコさんは家にいるんだな?」

「ああ……」

思ったとおりである。サトコさんとは、そのときふと浮かんだ知り合いの女性の名である。一安心したふりをして、さらに訊いた。

「相手の車の人にけがはなかったのか?」

「けがはなかったんだ……でも、相手の車が修理不能なぐらいこわれてしまったんだ……不動産屋さんのベンツで、これからお客さんのところに行く途中だったんだけど……すぐに代わりの車を買ってもらえれば警察沙汰にしないといってくれているんだけど、それには300万かかるというんだ」

「金のことは心配するな、命には別状なかったんだから、金なんてどうでもいい。それよりもまずそこに行きたい。どこにいるんだ?」

「えっ? いや、不動産屋の人がこれからすぐ移動しなくてはならないというので、お金を銀行に振り込んでくれればいいというんだ」

「そんな失礼なことは私にはできない。なんとか、私が行くまでその不動産屋の人に待ってはもらえないだろうか。お金は直接、私からお渡ししたい」

「いや、その……あ、保険屋の人が話したいそうなんで替わるから(電話を替わる音)あ、もしもしお電話替わりました。わたくし、日動火災のスナガと申します。このたびは、息子さんでいらっしゃいますね、事故を起こされたということでわたくしが現場の調査をさせていただいたのですが、ご説明いたしますと、不動産屋のカトウ様のお車、メルセデスベンツのCクラスなんですが、ガードレール脇で一時停止されておりましたときに息子さんが脇見運転されていて、時速40キロくらいかと思われますが、左側後部より衝突されました。わたくしの見立てによりますと、カトウ様のお車の損傷はかなり激しく、ほぼ全損といってよい状態なんですね。ただ、カトウ様のご厚意で、これからクライアント様のところに至急行かれるとのことで、なるべく穏便に済ましたく、同等クラスの車を用意していただければ訴訟などには持ち込まなくてもよいとおっしゃっておられます、私どもの見積もりによりますと、使用年数などを考慮いたしまして約317万円になるのですが、300万でよろしいと、こうおっしゃってくださっています……」

「そうでしたか、息子がたいへんなご迷惑をおかけしました。ぜひお会いしてお詫びしなければ、私の気持ちがすみません。ひとつ腑に落ちないのですが、私も長年ベンツに乗っておるのですが、そのくらいの衝撃で全損するような車ではないと思っておりました。いったい、どのような損傷なのか、私もベンツEクラスのオーナーとして他人事ではありません。ぜひ、現場を拝見させていただきたい。そして直接、カトウ様にお詫び申し上げたい。お金も、直接持参いたしたい。カトウ様と話すことはできますか」

「ああ、それはちょっと……あ、ではカトウ様に替わります(カトウ様登場。3人目である)。もしもし、カトウです」

「このたびは息子の不注意でたいへんなご迷惑をおかけして、お詫びのしようもございません。お怪我はございませんでしたでしょうか」

「はい、大丈夫です……」

「カトウ様は不動産のお仕事をされているとのことですが、社長様でいらっしゃいますか。300万で穏便に済ませていただけるというご厚意にたいへん感謝しております。さっそくですが、お忙しいところ、申し訳ないのですが、いまからすぐにそちらに向かおうと思っています。もちろん、そのときにお金もお持ちいたします」

「いや、振り込んでもらった方がよいのですが……」

「そんな失礼な真似はできません。わたくしも、じつを申しますと小さな不動会社を経営しており、同業でありながらお仕事上のご迷惑をかけたこと、たいへん心苦しく思っております。ぜひ、お会いしてお詫びしたい。息子の不注意とはいえ、それはとりもなおさず、親である私の責任でもあります……」

「いや、はい……」

「カトウ様、正直申し上げて300万ではとても申し訳が立ちません。そんなはした金では、私のお詫びの気持ちに代えることはできません。どうか、ご遠慮なくおっしゃってください。お金の問題ではございません。私の気持ちがすまないのです。400万でも、500万でも、私としては喜んでお支払いする用意はございます。どうか、おっしゃってください、カトウ様! なんとかおっしゃってください、カトウ様!」

(ガチャ、ツー、ツー)

突然、電話は一方的に切られてしまった。


役者としての演技力からすると、不動産屋役のスナガ氏がダントツであった。弁舌のさわやかさといい、敬語の使い方といい、おそらく営業畑でそれなりの経験を積んできたものと思われる。この世界でなくても、十分営業マンとしてやっていけるので転職をすすめたい。評価A。

「息子」は正体を知られてはまずいので、ぐすぐす鼻をすするばかりであった。とっさの質問に機転が利かないので、役者としての力量は高いとはいえない。評価はC。

不動産屋のカトウ役は明らかなキャスティング・ミス。演技力もなければ、不動産屋社長としての貫禄もない。この業界は向いていないと思われるので、早くべつの道を歩んだ方がよさそうである。評価なし。

そしてなにより、後ろから追突したくらいでベンツが全損するという設定、そしてそれほどの事故に遭いながら車内にいた者が無傷という設定も安易すぎる。評価D。以上。

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コメント

 電話、まったくそうですね。
昨日も原稿を書いていて佳境にはいりつつあるところに電話。
「先日お送りした資料をお読みいただけたでしょうか」とアメリカンホームダイレクトなる生命保険業者からの電話でした。
「読んでいない」というと、お電話で説明させていただけないか、という。ああ、せっかく佳境に入ったのに、と思いつつ電話での説明をお断りした。

 また、電話に出ると「わが社はこれこれの歴史があり、、、」、(なんで君たちの会社の歴史聞くすじあいはあるのか)とか「野球選手の***でコマーシャルをやっている:::社」など解らんことが多い。

 日曜日の午前中10時(!!)、一流銀行の投資部門からの投資案内がきた。クリスチャンで日曜日は教会にいったりする安息日なので電話はやめてください、と伝えた。向こうは、みんな忙しく日曜日でないとなかなかつかまらないので電話した、というが、、、、。大体、銀行は日曜日は営業しないはず、この電話は法律違反である、とクリスチャンは言った。金曜日はイスラム教徒になろう。ユダヤ教のシャバットは土曜日でよかったのかな?土曜日はユダヤ教徒になる。曹洞宗の安息日を私は知らない。

投稿: 小松義夫 | 2006年1月30日 (月) 14時55分

ぎゃはははは!!
こんな腰抜けなオレオレ詐欺もいるんですねー。
おもしろーいっ!

にしても、真知さんも起き抜けで、よく頭がまわったなー。
流石ざます。
僕も見習お!

って、何を(笑)!?

投稿: あきら | 2006年1月31日 (火) 22時22分

>小松さん
金曜日はムスリム、土曜日はユダヤ教徒、日曜はクリスチャンというのはいいですね。さすがに電話で宗教の勧誘はないですね。「ものみの塔」の直接訪問はときどきあるのですが、「宗教がちがうので」といって断っています。

>あきらさん
じつは受話器を取って10秒くらいは寝ぼけていたせいもあって真に受けました。覚醒してくると、明らかに変だとわかったんですけどね。

投稿: 田中真知 | 2006年2月 1日 (水) 01時27分

友達の家の話ですが、父が呼んでいるので何事かと思って行ってみると、
父「おい、いま弁護士から電話があって、お前が事故を起こして捕まったらしいぞ」
友人「ここにいるのにか(笑)それってオレオレ詐欺だろ」
父「そうだな。なんて言ってやる?」
友人「できるだけ引き延ばして遊ぼう」
ってことでいろいろ聞き出したところ、友人は妊婦が乗った車と事故を起こしてしまい、女性は事故のショックで流産してしまったそうです。
で、緊急の手術費用が必要だけど、本人は警察に拘束されているので、至急手術費用を振り込んで欲しいとのこと。
友人の父が病院はどこだ、逮捕された警察はどこだと聞いていると電話が切られてしまったそうです。

友人曰く「後から考えれば、先に振り込み口座を聞いて警察に通報するべきだったが、なぜか嬉しくてはしゃぎすぎてしまった」とのこと。
冷静に対処するのって難しいですねえ。

投稿: 木村 | 2006年2月 5日 (日) 18時57分

その場に息子がいるとは、なんとまぬけな展開。じつはぼくも電話を切った後、口座を聞いておけばよかったと後悔したのですが、その後警察に電話してみると、たとえ口座がわかったとしても、実際に被害がなければ意味がないといった返答でした。「被害はあったの?」「ありません」「それはよかったね」というだけで手口や会話の内容などを聞かれることもありませんでした。

投稿: 田中真知 | 2006年2月 5日 (日) 22時01分

昔のペンネームで書いています。

インドネシアのセレベス、マカッサルで私が持っているノキアの電話に「注文ありがとうございます」とマカッサルに事務所のある水産会社の東京本店から電話がかかってきた。謎なのですが「当社は希少水産物ならびにカブト虫などを扱っていて、あなた様の名前で大量の魚を注文してくれてありがとうございます」という。

ケイタイ電話の番号はホテルにチェックインした時と飛行機の切符を予約した時しか外部に知らせていない。
勿論、注文を取り消したが、一体だれのイタズラか。むやみに電話番号を知らせないほうが良い、ということなのでしょうか。
ホント、困ったどうしよう、です。

この電話でカブト虫をセレベスで獲って商売にしている人がいることをかすかに知った。

また、別のところで台湾人が地元の漁師に頼んでクジラを見境も無く獲ってもらい、買い付けていることを知った。インドネシアの海にはマッコウクジラがウウヨウヨいます。

では。
2月20日、東京にて。

投稿: 小松田 堂鐘 | 2006年2月20日 (月) 16時44分

>小松田さん
知らせがないまま大量の魚が送りつけられてきたら途方に暮れますね。マダガスカルでは保護動物であるホシガメを国外に持ち出そうとする業者があとを絶たないと聞きました。もっとも、国内ではこっそり食べられているみたいなのですけど。

投稿: 田中真知 | 2006年2月22日 (水) 19時34分

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