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おじさんは変な人じゃない

今回も電話の話である。

子供が中学校に入ってまもなく、どこで知ったんだか、やたらに塾やら家庭教師センターの類からの電話がかかってくるようになった。

そんな電話が来るたびに、「まにあっています」とか、ときには声色を変えて「いま、お父さんもお母さんもいないので、わかりません」とか答えていたのだが、中にはなんど断っても電話をかけてくるところもあった。

中でもしつこいのが、学生がやっているというふれこみの某家庭教師派遣センターだった。電話に出ると、かならず最初に「もしもし、私、○○大学○年生の○○と申します」と名乗った。そして「現役の大学生」であることを強調し、料金も一般の塾や家庭教師センターにくらべて格安だとアピールした。

とはいえ、家庭教師をお願いする気はなかったから丁重にお断りしていたのだが、横の連絡がうまくいっていないのか、三日とおかず、また電話がかかってくるのだった。いいかげん、こっちもうんざりしていたある日、また電話がきた。

「もしもし、私、青山学院大学2年生のモリタと申しますが、○○ちゃんの教育のことでお電話させていただきました」という女性からの電話だった。それから、いつものように自分たちの会の成り立ちのこと、初回は無料体験であることなどを説明した。

「なるほど」モリタさんの話が一段落したあと、ぼくは教育熱心な親らしい慇懃な口調でいった。「たしかに、いまの学校の教育にはいろいろ疑問を感じています。先生の質に、首をかしげざるをえない事件も、最近はよくありますからね。その意味でも、信頼できる家庭教師の方に、子供の教育をお願いしたいという気持ちは前からありました」

「そうですか」モリタさんの声が明るくなった。

「ところで、モリタさんは教科は何を教えられるのですか?」

「私は教えるとしたら国語です」

「大学でも国語を専攻されているのですか」

「いえ、専攻は教育学です」

「そうですか。教育学といえば、今後の日本の人材育成のために欠かせない学問ですね。あらゆる分野について幅広い知識が要求されますね、勉強もさぞたいへんでしょうね」

「ええ、まあ……」

「教育学を専門とされている方に息子の勉強を見ていただけるとは願ってもないことです。ただ、やはり子供を託す親の気持ちとして、失礼かとは思いますが、いくつか確かめたいことがあるのです」

「どういったことでしょう?」

「国語を教えられるということですが、夏目漱石という作家がいますね」

「はい」

「その漱石が最後に書いた未完の小説はなんだかご存じですか?」

「……」

「もしもし」

「……あの、わかりません」

「わからない。……そうですか。まあ、モリタさんは教育学の方ですから、あまり小説はお読みにならないのかもしれませんね」

「すみません」

「では、もっと一般常識的なところでお聞きしたいのですが、いまイスラエルとパレスチナの問題がひじょうに深刻化していますが、そうした今日のパレスチナ問題のきっかけとなったバルフォア宣言というものがあるのですが、これはどんな内容なのか、ご存じですか?」

「……わかりません」

「まあ、ちょっと古い話ですからね。では、もっと最近の時事問題はいかがでしょう。中国の食糧自給率が近年、大きく変化していますが、いま何パーセントくらいかはご存じですか?」

「……わかりません」

「そうですか。モリタさん、あなた大学生ですよね。いまお話ししたようなことは、大学生なら当然知っておくべきことですよ。他人を教えるよりも、いまあなたにとって大切なことは自分が学ぶことだとは思いませんか。あなたの親御さんだって、そのことを望んでおられるのではないでしょうか」

「すみません」

モリタさんは恐縮して謝罪の言葉を述べて電話を切った。やった! ただし満足感の一方で、なんていやなオヤジなんだろうと少々自己嫌悪に陥った。それでも、その甲斐あってか、二度とこの家庭教師センターからは電話が来なくなった。

それからしばらくして、やはり中学生の娘さんがいる知人の家を訪ねた。雑談をしていたとき、その家のお母さんが、最近「娘の家庭教師をします」という電話がひんぱんにかかってきて迷惑しているといった。ぼくが、うちにもそんな電話がひんぱんにあったけど、最近はすっかり来なくなったという話をしたそのとき、彼女の家の電話が鳴った。

彼女は受話器を取ると、「はい、はい」と相づちを打ちながら、ぼくに目配せした。いぶかしんでいると、彼女が「それでしたら、ちょっと替わります」といって、こちらに受話器を渡した。

わけもわからず受話器を受け取り、「もしもし、お電話替わりました」というと、「あ、ご主人様でいらっしゃいますか」と男性の声がした。なんと、相手はいましがた彼女が話していた家庭教師派遣の会社だった。こんな偶然がほんとうにあるのだ!

どうやら、うちにかかってきたのとは別の家庭教師センターのようだった。学生ではなく、きちんとした会社組織のようだった。一通り説明が終わって、ぼくは切り出した。

「ところで、娘を託すというからには、親として信頼できる方であるかどうか確かめたいという気持ちがあります」

「それはごもっともです」

「失礼ながら、つかぬことを伺いますが、よろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「夏目漱石という明治の文豪がいますね」

「はい」

「その漱石が最後に書いた未完の小説はなんだかご存じですか?」

「はっ?」

「漱石最後の未完の小説のことです。国民的作家である漱石について、教育に携わる方なら知っていて当然と思うのですが、ご存じですか」

「……」

「もしもし、聞こえてますか。わからないようでしたら、次にいきます。いまイスラム過激派によるテロが各地で起こっておりますが、イスラムにおける五つの義務とはなんだかご存じですか? 」

(ガチャ、ツーツー)

なんと電話はいきなり切られてしまった。あいさつもなしに失礼な人である。しつこい家庭教師斡旋の電話を撃退した満足感とともに受話器を置き、彼女とそばにいた娘さんや息子さんの方を向くと、みなポカンとしている。迷惑電話をしりぞけてもらったことに感謝しているという雰囲気ではない。お母さんは笑ってくれたが、娘さんは困ったような顔をしている。

マリコちゃん、おじさんは変な人じゃないんだよ。ふだんは、こんな人じゃないんだからね。

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コメント

 初めてコメントさせていただきます。

 そーだ、そーだ。そんな電話くらいで商売が成立してしまうほど世の中お気楽にできていないのであーる。また、そんなんで商売が成立してしまってもいけないのだ。若者はもっと知恵と体力を駆使して儲けるべきなのよ。
 むしろ、「私は世の中のこと全然ウトイし、人間としても遠く未完成ですが、お受験テクニックだけは、まだナマナマしく伝えられそうですので、そんな私ですが買ってください」 と素直に言えばいいのではないか。そもそも学生が金を儲けるネタが家庭教師、というのは最も短絡的発想で、柔軟性やチャレレンジ精神にも欠けるのではないでしょうかねえ(ま、自分もやったことあるけど。。)

 ここは真知さん、カトウさんとの一件といい、そこまで電話応対に造詣を深くされたのですから、是非、新しい著述をお願いします。タイトルは考えました。

 「迷惑電話を120%楽しんで撃退デキル<基本テク編>」
 (サブタイトル 「これでオレオレ電話なんか大楽勝」)
 (特別付録「迷惑電話パターン別 かけた相手も即効ギャフ  ン応対用CD付き)

です。基本編としてたのは、これを読んだ悪いヤツラも凌駕しようとがんばってくるでしょうし、それに対して「実践編」とか「上級者用」などを用意することで、世の中に寄与しながら続編につぐ続編の発行で、印税ガッポガッポも狙え一挙両得(で、いいんだっけ?)となるでしょう。売れて売れて増刷につぐ増刷となることウケアイです。

投稿: オイちゃん | 2006年2月 5日 (日) 22時15分

嬉しい~!王様の耳掃除が復活してるー!!
しかも新天地@
役に立つ情報満載ですね
復活をしったからには、これからもちょくちょくおじゃましまーす!

投稿: *^^* | 2006年2月 6日 (月) 03時05分

>オイちゃんさん
うさんくささいっぱいの企画をありがとうございます(笑)。新聞で、おれおれ詐欺(息子が親に金をせびる)はあっても、わしわし詐欺(親が息子に金を送れという)はないという主旨の記事を読んだことがあるのですが、たしかに、親→子(孫)というのが、お金の流れの王道なのでしょう。あたしあたし詐欺(妻→夫)や、おれだおれだ詐欺(夫→妻)というのも、たぶんうまくいかないだろうな。ただし、あたしあたし詐欺(愛人→夫)というのはありえるのかな。

>*^^*さん
はい、復活していたんです。お友だちにも教えてあげてくださいね。

投稿: 田中真知 | 2006年2月 6日 (月) 12時38分

 あら、まおちゃんもう中学生なんですか?私の塾系撃退は、とっても優秀になりきる事です。ほんとに優秀なんですけどね、おほほほほ。”今日の期末テストどうでした?” ”えっ、とてもよく出来ましたけど、なにか?”
 (しつこいようだが)Eカップ、月収100万、超優秀!あとはどんな嘘つこうかな〜。

投稿: ぷく | 2006年2月 6日 (月) 22時23分

>ぶくさん
Eカップって嘘だったんですか? それなら恥ずかしからず正直にFカップだとおっしゃってください。笑ったりしませんから。

投稿: 田中真知 | 2006年2月 7日 (火) 01時00分

こんばんは。laombe@長崎です。迷惑電話撃退といえば、ほかにも逸話があったような気が……。なんにしても撃退を楽しんでおられますね。(この記事のすぐ下に家庭教師派遣のリンクが張られているのは・・・偶然ですよね)。

投稿: lalombe | 2006年2月 9日 (木) 01時22分

>lalombeさん
あっ、ほんとだ! ちっとも気がつかなかった。広告は自動的に内容に合ったもの(?)になるのですね。ベートーベンについて書いたページを見てみたら、クラシックCD全集と「おそうじ本舗」という会社の広告が貼ってありました。クラシックCD全集はわかるけど、おそうじ本舗とはなんだ? しばし考えて、はっと気がつきました。そうか、王様の耳そうじだからだ!

投稿: 田中真知 | 2006年2月 9日 (木) 01時58分

面白い!
夏目漱石の話、笑えました…もし我が家にも掛かってきたら真似してみます♪

投稿: 時雨 | 2006年2月19日 (日) 20時01分

>時雨さん
ぜひ試してみてください。そのときのために質問をあらかじめいくつか用意しておいた方がいいかもしれません。この電話のあと「全部答えられたら、どうするつもりだったの?」とマリコちゃんに聞かれたのですが、そこまでは考えていませんでした。

投稿: 田中真知 | 2006年2月19日 (日) 23時32分

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