さかなを食わないやつは……
前回、食べ物のキャンペーン・ソングについて書いたところ、知人からメールがあり、娘のマリコちゃんが「だいずのうた」をたいそう気に入り、覚えるといったそうである。告発のつもりが、かえって普及活動になってしまった。
とはいえ告発したいのは、食料品売り場で音楽を垂れ流すという、その行為のほうである。むしろ、こうした食品系キャンペーン・ソングが生まれてきた背景には、景気の低迷や消費の伸び悩みといった切実な事情があるのも事実なのだ。
たとえば日本の魚介類の消費量に関する統計資料を見てみると、1991年にそれまで右肩上がりだった消費量ががくんと下がっているのがわかる。「おさかな天国」が発売されたのは、まさにこの年である。
曲のおかげかどうかはわからないが、その後魚介類の消費量はやや持ちなおす。しかし、2000年からまたも消費量が下がり出す。これではいけないと、2002年、ふたたび「おさかな天国」をリバイバルさせ、それがあのブレイクにつながったのだ。
同じ頃、やはり日本の食に脅威をもたらしたのがBSE(牛海綿状脳症)である。BSEともなれば、牛肉の消費量は下がる。当然、人びとはしゃぶしゃぶを食べなくなる。しゃぶしゃぶを食べなければ、しゃぶしゃぶのタレも売れなくなる。
そこで、もっとしゃぶしゃぶを食べてもらうために、しゃぶしゃぶのタレをつくっているミツカンが「しゃぶしゃぶレンジャーの歌」をつくった。

作詞作曲はデーモン小暮で、歌っているのはミハエル・シャブシャブスキーだそうだ。ミツカンのサイトを見ると曲は聴けないが、歌詞が載っている。レンジャーという言葉からもわかるように、彼らはお助けマンである。じつは、これがキャンペーン・ソングの重要なポイントである。
さまざまな食品にキャンペーン・ソングがあるということは、じつは日本の食が相当の危機に瀕していることのあらわれにほかならない。だいずも、かまぼこも、コロッケも、たこ焼きも、鍋焼きラーメンも助けを求めているのだ。「さかな、さかな〜」とか「やっさい、やっさい」というのも、メロディーはほのぼのしているが、中に込められたメッセージは、じつは過激なまでの苦渋を含んでいるのだ。
そんな過激なメッセージをストレートにぶつけたキャンペーン・ソングも最近は出てきているようだ。サイトを見ただけではどういうものなのかよくわからないのだが、たとえばこういうバンド(?)もある。

「日本の食文化を魚に戻し鯛」というのがキャッチフレーズらしく、実際に魚介類の通販もしている。砥石のCDまで売っているらしい。それにしても「解体マグロック」って、どんな曲なんだ?
セックス・マシンガンズというバンドの「みかんのうた」というのも過激系破壊的キャンペーン・ソングといえるかもしれない。「みかんを粗末にする奴は みかんにやられて死んじまえ こたつにみかんが無い家は 日本の心を失くしてる 日本の心を取り戻せ」と歌詞も過激だし、曲調もパンクである。
食品系キャンペーン・ソングには、ほのぼのと暴力性が同居している。本当は過激に飛ばしたいところを、ぐっとこらえてほのぼのした雰囲気を演出しているのだ。「さかなを食わないやつは 日本の心を失くしてる」といいたいところをぐっと抑えて「さかなを食べると あたまがよくなる」といっているのである。しかし、それもいまや破綻を迎えつつある。じつは、その破綻が顕著に見られるのが日本の「地方」なのである。(つづく)
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