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キャンペーンはご勘弁

スーパーマーケットの鮮魚コーナーで「サカナ、サカナ、サカナ〜」という歌が流行っていたときのことを以前書いた(「サカナを食べてもアタマは痛い」参照)。あの頃は聞きたくもない歌を鮮魚コーナーに行くたびにむりやり聞かされるのが苦痛でならず、ひたすらブームが過ぎ去るのを待っていたのだが、どうやらこの歌はブームを超えて、いまやスタンダードになってしまった。それどころか、この歌のヒット以来、スーパーの食料品売り場のさまざまなコーナーで似たようなキャンペーン・ソングが聞かれるようになってしまった。

最近はあまり聞かないが、一時期など、鮮魚コーナーでは定番の「お魚天国」、青物コーナーに行くと「やっさい、やっさい、毎日食べて」という野菜の歌、さらに精肉コーナーでは「すきすき、すきすき、おなかすきすき、ステーキ、からあげ、しょうが焼き」といった肉の歌まで流れていた。さらにコロッケを揚げているおねえさんの横のラジカセからはコロッケの歌なんてのまで流れていて、こうなると、もうたのむから勘弁してほしい。

これらの歌は、すぐに覚えてもらうためだろう、どれも単純で耳に残りやすいメロディーと歌詞がつけられている。スーパーの食品コーナーを一回りして買い物をすませて外に出ても、頭の中にはこれらの歌がすっかりコピーペーストされていて、iPodでキング・クリムゾンを再生しても、ロバート・フリップのギターの背後から、「あたま〜がよく〜なる〜」とか「にんじん食べればお肌つるりん」といったフレーズがサブリミナル・メッセージのように囁きつづけるのである。

ところで「お魚天国」で火がついたと思われる、こうした販促ソングは、どのくらいあるものなのか。こわいもの見たさというわけではないが、ちょっと調べてみると、出てくるわ出てくるわ、こんなものにまでと思うような食材にまで曲がある。

まず「やっさいやっさい毎日食べて」の野菜の歌。これは正しくは「やさい王国」という歌で、ホームページまである。それによると、この歌は「長野県の穂高町(現安曇野市)在住の3人の子持ちの主婦、千野真知が野菜嫌いの子供たちが歌って踊って野菜を好きになってくれるようにとの願いを込めて」お友だちといっしょに自主制作したものだという。「振り付け・ダウンロード」のコーナーでプロモーションビデオも見られる。
Yasai_1

こんなんで子供たちが野菜を好きになるものなのかと思うのだが、ホームページを見ると、かなりの人気らしい。掲示板も盛況で、歌をうたっている二人組の主婦ユニット(unit My)はスーパーやら児童センターなどで、いまもひんぱんにライブをこなしているらしいので興味ある方はどうぞ、と宣伝している場合ではないのだが、歌っている主婦の方と名前がいっしょなので、まあしかたないか……。

ほかにも目についた食品・食材系キャンペーン・ソングをいくつか挙げてみる。

「お肉の歌」
 がけっぷち芸人バンドというのが歌っているらしい。ときどき耳にしたが、最近は聞かない。

コロッケのうた
 ホームページで、プロモーションビデオが見られる。コロッケのイラストがかわいい。
Corokke

だいずのうた
 兵庫県の健康財団が、もっと大豆を食べようということでつくったもの。プロモーションビデオを見ると、70年代のアイドルみたいなかっこうをした5人のお姉さんが、野原の真ん中で「だいずんずん、だいずんずん イソフラボンがたっぷりだ」と歌いながら踊る。お姉さんのかっこうと、まわりの自然との対照がなんともちぐはぐ。2004年に制作されたらしいが、異様に古めかしく感じてしまうつくりである。
Daizu2

「たこ焼きの歌」
 聞いたことはないが、記事によると、大阪で作られたこの歌を韓国のたこ焼き店が気に入って韓国語版をつくったところ、韓国でヒットチャート入りしたのだそうだ。
Tako_1


鍋焼きラーメンの歌
 高知県須崎市生まれの鍋焼きラーメンのよさを知ってもらおうとつくられたという。鍋焼きラーメン? 作詞作曲は、「アンパンマン」の作者であり、同県出身の漫画家やなせたかし氏。やなせ氏は1919年の生まれだが、84歳になってから作曲を始められたそうである。

かまぼこの歌
 舞鶴蒲鉾協同組合の企画によるカマボコ応援ソング。「 板かま、笹かま、かに風味、蒸し板、梅焼き、伊達、なると」とかまぼこ・ちくわ系の魚肉練り製品の名前が、歌っているうちに自然に覚えられるとのこと。
Kamaboko

やや毛色はちがうが、驚いたのがキューピーマヨネーズのホームページである。担当者の趣味なのかもしれないが、ここはオリジナルの食材ソングの宝庫だった。「知る・楽しむ」というページの下にある「ジュークボックス」というアイコンをクリックすると、アスパラガス、ジャガイモ、カボチャ、カニ、カリフラワー、ゴマ、トウモロコシ、オレンジ、ピーマン、赤カブ、レタスなど、12種類の食材についての歌が聞ける。

ひととおり聞いてみると、12曲もあるのに、それぞれの曲の雰囲気がみなちがう。ポップス調のもの、ロック調のもの、50年代のロックンロール調のもの、歌謡曲調のもの、ラップ調のものなど、さまざまなタイプがあるうえ、曲のレベルやアレンジの完成度も高い。歌詞も工夫がきいていて、自治体主導のいまひとつあかぬけない販促ソングに比べると、洗練度がちがう。

たとえば「オレンジソースの歌」はデュエット形式で「オレンジは考える。もっとちがう私があるわ。定められた食べられ方。教科書どおりの××(聞き取り不能)。そんなのって、そんなのって私がなんだか可愛そう……」と歌う、いわばオレンジの自分探しなのだ。このオレンジが、同じく自分探しをするマヨネーズと出会って恋をしてソースになるという話である。

「カラーピーマン」はファンキーなバックコーラス付でかっこいい。歌詞はつぎのようなかんじだが、ラップなので一気に口を大きく開けながら読むこと−−「生まれ故郷はじりじり太陽が焼きつく熱帯熱帯アメリカなんだよあのコロンブスがスペインに持ちかえったのが始まりピーマンの名前もスペイン語のピメントから来てるんだエスニックな香りがしてるだろう、green yellow red black and white……」。

いったい食材や食品に歌をつけるという発想はいつ頃からあるのだろう。かつての納豆売りや豆腐屋の売り声、あるいは「やきいも〜やきいも」というのも、そうなのかもしれないが、物売りでない人たちの間にも歌という形で伝わっていったものはあったのだろうか。そう思って、さらに調べてみたら、あった。なんと明治時代の尋常小学校の教科書に「うめぼしのうた」という詩が載っていたという。いまの販促ソングとは対照的に、けなげで、しみじみした詩である。

思えばつらいことばかり
それでも世のため人のため
しわは寄っても若い気で
小さい君らの仲間入り
運動会にもついてゆく
ましていくさのその時に
なくてはならない このわたし

食品系キャンペーン・ソングにもいろいろあるのはわかったが、スーパーで流れるこの手の歌がどうしても好きになれないのは、その押しつけがましさにくわえて、地味なものをむりやり派手に盛り上げようとするあざとさのせいだと思う。それは最近のスポーツ中継、とくに女子バレーなどでアナウンサーが選手を「○○姫!」と呼んだり、スパイクのたびに「出た! 幻のスーパー○○」などといって舞い上がっているのを聞くときの白けた気分と近い。

それでも子供が売り場に設置された宣伝ビデオモニターの映像に合わせて楽しそうに踊っているのを見たりすると、そのボリュームを強引に下げる気にもなれない。いらだたしく悩ましい食料品売り場の時間である。

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コメント

 またまたお説ごもっと!と共感しておりヤス。あっしも以前、耳に残って消えずに忘れた頃にフ、とアタマで鳴り出す「サカナサカナ攻撃」にやられちまっておりやした(夜の電車でヨッパライがサカナをチ○ポにして歌詞もチョイ替えで大声で若い女性の真横で唄っていたのに遭遇しちまったダチもいたんですがね)。
 さらに同じく地元灯油売りCARから流れるテーマメロディーを、ふと気づくと何気なくギターで弾いちゃってる自分を家族に発見されたりもしやした。
 会社にやってくる餃子CARの「ギョウザ~ギョウザッ!」も大学堂の「アイスクリームアイスクリームアイスクリームだよ~♪」もみんなみんなそうでがんす。
 世の中すべて勝ち負けじゃーござんせんが、こういうのはやっぱり「ヤラレター」とヘコまされちまいますよ。
 最近じゃぁ、地元駅横のT武ストアにおいては、「森永アロエヨーグルト」の売り場で「アロアロアロエロアロエロア イェイイェイ~」っていう志村けんの変形みたいのが、私の耳の最強の敵でやんす。

投稿: オイちゃん | 2006年2月12日 (日) 02時03分

 わたしも真知さんと同じで、そういうのが気になってしょうがない、というか、脳内無限リピートに陥って苦しむんですよ。最近では、灯油の巡回販売が、なぜか「さっちゃん」を流しているので苦痛です。
 ところで、そちらでは野菜売り場で「ホクトのきのこ」の歌は流れていませんか? 数年前に小学生のあいだで流行った歌ですが……。リンク、上手くいくかどうか分かりませんが(こうやってまた真知さんの頭痛のネタをふやすのだ)。
http://www.hokto-kinoko.co.jp/class/03.html
うたは「きのこオールスターズ」です(笑)

投稿: lalombe | 2006年2月12日 (日) 10時01分

>オイちゃんさん
昔住んでいたところでは昼時にパン屋が音楽を鳴らしながらやってきたのですが、そのテープが伸びきっていていつも同じところで音程がぐにゃりとよじれるのがたまりませんでした。しかも、そのあとのアナウンスの日本語がひどかった。「停車場所はいつもの場所で停車いたします」って幼稚園児の作文かよと家の中で怒鳴っていました。

>lalombeさん
こっちの灯油販売は2つあるのですが、ひとつは「メダカの兄弟」で、もうひとつが「あったか灯油」です。「メダカ……」の方は音量が大きいので絶対買いません。
ホクトのキノコ、やられました。一日中鳴っています。次回、リベンジさせてもらいます。

投稿: 田中真知 | 2006年2月12日 (日) 15時49分

鈍感な私は、仕事帰りスーパーで買い物する時、鮮魚売り場ではさかなさかなさかな〜、きのこの前ではきのこのこのこげんきのこ〜、と頭の中でつぶやいています。これは毒されているのですか!洗脳されているのですか!私のような鈍感でEカップで月収100万(いい加減しつこい!)女には、その程度の女と真知さんはせせら笑うのですか?
 私は真知さんのサイン本も持っているのですよ!(旅行人の通販で買ったので)
 真知さんの、辻邦生追悼文からのファンでしたが、凡人の私はしばらく修行に出てくるまでコメントしません。

投稿: ぷー | 2006年2月12日 (日) 23時13分

>ぷーさん
 ぼくの言ったことがEカップで月収100万のぷーさんを傷つけたのだとしたら申し訳ありません。ここで言いたかったのは、自分はこういう音環境が生理的にひどく気になってしまう体質だということで、ほかの人の感じ方を批判しているのではありません。
 おおげさなたとえかもしれませんが、ほとんどの人はそばを食べてもなんともないのに、そばアレルギーの人は発作を起こしたりしますよね。それと同じような病的なものだと自分では思っています。そばを食べられる人を鈍感だといっているわけではありません。
 エジプトに暮らす前までは、BGMのある喫茶店やレストラン、居酒屋にはけっして入れませんでした。鈍感とか敏感といったことではなく、そうした場にいると心拍数が上がって、パニックを起こしそうになるのです(実際、そういうことがなんどかありました)。なぜそうなるのか自分でもわかりませんが、生理的につらいのは事実なんです。
 もっとも、いまは、こんな文章を書けるくらいなので、以前に比べれば、ずいぶん慣れました。エジプトでアザーンと結婚式に激しく鍛えられたせいかもしれません(笑)。

投稿: 田中真知 | 2006年2月13日 (月) 00時51分

 ご丁寧なお返事有り難うございます。なるほど、根本な違いなのですね。アザーン、大好きです。家の中でもアザーン時計を鳴らして聞き入っていたら、数回で火を吹いて壊れてしまいました。残念です。
 ちなみに訂正します。寄せてあげたらGカップ、年俸50万円あがったので、月収1041666円になりました。もう二度とこの話題は出しません。

投稿: ぷー | 2006年2月15日 (水) 23時34分

こんにちは、初めまして!

他の方が「うめぼしのうた」について
書いておられるのを探しているうちに
こちらへたどり着きました。

実は私も「梅干しの歌」について、
記事をのせました。
でも、他の方々は
「…ましていくさの時には
 なくてはならないこのわたし」
までで詩が終わっているように
思われているかたが多いようですね。
梅干しの歌は現代のような食べ物ソングではなく、
どちらかというと、明治の時代には
わらべ歌のように、それを通して
梅について学ぶ意味合いがあったらしいです。
ですので、一年を通しての詩がちゃんと
あるんですよ。

ではでは、お邪魔しました(^.^)

投稿: KeY-Bo | 2006年6月12日 (月) 16時02分

>KeY-Boさま
ブログ拝見させていただきました。なるほど、梅干しの歌は昨今の食べ物キャンペーンとは性質がちがいますね。KeY-Boさんのご指摘のように、一年を通しての季節の移り変わりを歌う、わらべうたにちかいようですね。貴重なコメント、ありがとうございました。

投稿: 田中真知 | 2006年6月23日 (金) 18時50分

 店内のBGMや即販BGM、ほんっとうに迷惑ですよね。同感です。当人達はよいかもしれませんが、気になる人は恐怖以外の何者でもありません。音楽の押し付けほど、おこがましく、暴力的なことはないですよね。もっと静かな環境で生活したいです、ホント・・・。国で取り締まってくれないかしら。

投稿: 音なし | 2006年10月17日 (火) 15時26分

>音なしさま
ご共感、ありがとうございます。一時期、あの音を聞きたくないがためにスーパーではヘッドホンで音楽を聞くようにしていました。でも耳栓代わりに音楽を使うという本末転倒な状況もまたいやで、いまではひたすら聞こえないふりを決め込んでいます。何年たっても音環境のひどさは変わらないですね。

投稿: 田中真知 | 2006年10月20日 (金) 05時33分

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