« ンガ、ンガと釘を打ち、ラジオに出る | トップページ | 鼠径ヘルニアなんて恥ずかしくない 1 »

デザインのテロリズム?

また間があいてしまった。間があいたわりにはしょぼい話で申し訳ないが、先日、ポイントカードとか診察券とか、そういうカード類をまとめておくためのちょっとしたファイルを探しに100円ショップに行った。


あの手の店に行くたびに思うのだけど、どうしてあそこにおいてある文房具の類には、そろいもそろって、なくてもいいような柄やイラストが入っているのだろう。こちらとしてはとくにデザインなどいらないから、シンプルなファイルがほしいのだけど、そういうものはなかなかない。


その代わりに、たいていピンクの花柄だったり、動物の稚拙なイラストが入っていたりと、理解に苦しむようなデザインが付加されている。どう見ても、そのデザインをくわえることで商品価値を下げているとしか思えない品が多いのだ。このイラストさえなければ、あるいはこの変な模様さえ入っていなければ買うのにな、と思うものがとても多い。


結局ポイントカードの類を入れておくファイルの表紙もピンクの水玉のものか、イヌのキャラが遊んでいるイラストのものか、リボンとお花がちりばめられているものかの、いずれかから選択しなくてはならなかった。三種類のファイルを手にとって眺めているうちに、あるいはこれまでの自分の人生も、こんな不本意な選択肢の中から選び取られてきたのかもしれんなあなどと、思わず人生を回顧してしまった。


もちろん、シンプルなのがよければ、無印良品などに行けばいいのだが、そこに抵抗を感じるのは、なぜイラストやデザインのないもののほうが値段が高いのかという点である。いくら稚拙とはいえイヌやリボンのイラストを入れるということは製造工程にひとつ手間が多いということである。デザインをプリントするインク代だって大量に製造すればバカにはならない。その行程がなくなればコストが低くなるのが道理である。にもかかわらず結果は逆になっているのは、なぜなのか。


同じことは洋服などでもいえる。シンプルなシャツよりも、意味不明のロゴや、得体の知れないキャラクターなどが入っているシャツのほうがたいてい安い。このわけのわからないロゴやキャラクターさえなければいいのに、と思っても、実際にロゴのないシャツになるとかえって高かったりする。デザインを施すことで商品価値が下がるという市場経済のふしぎがここでも観察される。


ちなみに、この手のキャラクターは、なにかの宣伝やキャンペーン、あるいは登録商標ではないところに特徴がある。キティとか、ディズニーなどとはちがって、その商品以外の何ともリンクしていない。いってみれば孤高のキャラなのだ。


ひょっとして、これは消費者にストレスを与えるために、あえて意図的に施されているデザインなのではないか。商品の価値というのは顧客の満足度にあるといわれる。たいていの場合、満足度が高ければ価格も高い。逆にいえば、満足度を低くすれば、価格も下がるということになる。だとすれば、価格を下げるために、あえてイヤガラセとしか思えないデザインを付加するというのも販売戦略としてありうるのかもしれない。


思い返せば、ずいぶん前、パイナップルの実に目鼻を描いたとても投げやりなキャラクターが胸にプリントされたTシャツを持っていた。たんに安さに惹かれて買ったのだけれど、やはり家以外では着る気がせず、結局パジャマ代わりになってしまった。思えば、このパイナップルのキャラもまたこのTシャツ以外に活躍の場を持たない孤高のキャラだった。


夜、寝るときにそのTシャツに袖を通すたびに、きみはなんのために生み出されたのだろうと思い、ときには彼の孤独を思って、きみはまるでぼくのようだねなどと話しかけたりはさすがにしなかったものの、少しもの悲しい気持ちになることはあった。いま思えば、このパイナップル・キャラも、シンプルなTシャツの上に描かれることによって、あえて商品の満足度と価値を下げるという機能をはたしていたのかもしれない。


だが、今になってみると、こうした商品価値を下げているとしか思えないデザインやイラストに一抹の共感を感じることもある。ミッキーマウスやキティといった時流に乗った勝ち組のキャラは、いわば消費者を無限の消費のネットワークへとのせてしまう。しかし、先のパイナップルのキャラや、100円ショップの商品にありがちな面妖なデザインは、その対極である。


コピーライトもなく、流行とも無縁、なにかの模倣でもなく、オリジナリティもない。むしろ、存在することによって商品価値や美的価値を下げ、消費者からも嫌われるデザイン。それでも、そこになにか惹かれるものがあるのは、それがひたすらネットワークを広げて、利益を生み出していく資本主義の論理に逆行しているように見えるからかもしれない。いわばデザインのテロリズムである。


結局、いろいろ悩んだ末、カード用のファイルはピンクの水玉のにした。

|
|

« ンガ、ンガと釘を打ち、ラジオに出る | トップページ | 鼠径ヘルニアなんて恥ずかしくない 1 »

コメント

真知さん

久しぶりの更新ですね。もう少し定期的に真知さんの文章が読めたら砂埃や排気ガスで麻痺した耳を掃除できるのですが・・・。

シンプルなものが好まれるのは日本など一部の国かもしれません。むしろパイナップルやミッキーマウスもどきは、それをデザインした人が売れるためにわざわざ入れたもののような気がします。たぶんそれを作っている会社は、それのデザインこそががポイントになると思っているのではないでしょうか。

この間、エジプト人の人足の一人が、顔の歪んだミッキーマウスがでかでかと描かれているオレンジ色のTシャツを着ていました。だれがどう着ても似合わないものだったのですが、その人目を引かずにはおかないTシャツは、働いている外国人の全員の注目を浴びていました。着ている人はそれがまんざらでもないようでした。

投稿: 河江肖剰 | 2007年5月 5日 (土) 05時40分

おお、かわえくん、久しぶりです。
たしかに、エジプトに暮らしはじめた頃、ショーウインドウに飾られた靴や下着の色やデザインにはまいりました。
女物の靴でも、シンプルな黒のパンプスは皆無で、かならずチョウチョウの飾りがついていたり、金色の縁取りがあったり、模造宝石がはめ込んであったりしました。
最近は、それでもシンプルなものが増えてきたように思うけど。
ところで、こんどそっちに行くときは、エジプト暮らしの長いかわえくんの好きそうな柄のTシャツでも買っていってあげましょう。

投稿: 田中真知 | 2007年5月 6日 (日) 13時09分

服に関しては
シンプルなものは、単に柄がプリントされるより手間のかかる、形自体にデザインがほどこされているものが多いので
プリントTより値がはる場合が多いんです。
プリントもデザインもないTとなると、おっさんが中にきるインナーTになってしまいますから。
けれど100均のデザインに関しては私もよく思います。
大きい100均ならあるんですけど、遠いそこまで行くなら便利さは半減です。

投稿: なな | 2007年5月 9日 (水) 21時10分

>ななさま

なるほど、形自体がデザインなんですか。プリントというのはもっとも安易なデザインなのですね。
納得しました。ありがとうございました。

投稿: 田中真知 | 2007年5月24日 (木) 20時25分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ンガ、ンガと釘を打ち、ラジオに出る | トップページ | 鼠径ヘルニアなんて恥ずかしくない 1 »