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鼠径ヘルニアなんて恥ずかしくない 1

ふだん自分のからだをしげしげと見ることなどあまりないので、初めてそれを見たときは少なからず驚いた。右脚の付け根の少し上あたりに、まるでピンポン玉でも入れたみたいなぽっこりとしたふくらみがある。なんだ、これは? いまから2カ月ほど前のことだ。
 

そういえば、以前からそのあたりで腸がつるりとずれるような感覚があったのだが、痛みもなかったので気にもしなかった。しかし、このふくらみはふつうではない。指で押すとお腹の中に戻るのだが、鼻をかんだり、くしゃみをしたりすると、押し込んだ部分がつるりとすべる感覚があって、またぽっこりとふくらんでしまう。むむ、これは、いわゆるヘルニア(脱腸)というやつではないか。

 
ネットで調べてみると、やはりそうだった。正しくは鼠径ヘルニアというらしい。脚の付け根の鼠径というところの隙間から、腸の一部がはみだしてくるのである。

 
原因はというと、幼児の場合は先天的だが、大人の場合は年齢とともに力の入りやすい鼠径部の筋組織が弱ってしまうためだという。40代以上の男性に多いらしく、とくに立ち仕事や腹圧のかかる仕事に従事している人に多いともいう。立ち仕事も腹圧のかかる仕事もしていないのだが、ひとつ思いあたるのはこのところやたらくしゃみが連発して出るようになっていたことだ。

花粉症というわけではないと思うのだが、いちどくしゃみが出ると、連続して4回から5回、ときにはそれ以上出る。しかも音が大きい。子供のときは、よく中年のおやじが「へーくしょい!」とバカでかいくしゃみをするのを見て、なんて品のないくしゃみだ、あんなおやじにはなるまいと思っていたのだが、気がついたら自分も同じようなくしゃみをしているのだから、いやんなってしまう。


べつに好きでしているわけではない。どうも、おやじのくしゃみがでかいのは医学的な理由があるらしい。なんでも加齢によってからだの免疫力が落ち、そのため体内に入った異物を自力で出さなくてはならなくなるため、必然的にくしゃみがでかくなるらしい。しかし、くしゃみの威力というのは、じつは人間の発揮する瞬発力の中でおそらく最大のものなのだ。

 

なにかで読んだのだが、くしゃみの初速は実弾並みで、その際にからだにかかる反動は数百キロにのぼるという。実際、くしゃみをするとき下腹に手をあてると、すごい圧力がかかっているのがわかる。このせいで鼠径部に内側からくりかえし圧力がかかり、ついには鼠径部をこじあけて腸が飛び出してしまったのかもしれない。それにしても、昨年は顔面神経麻痺で顔の半分がだらりとずり落ちるし、今年は腸がはみ出すし、年をとるとからだのしまりがなくなるなあ。

で、鼠径ヘルニアだが、気づいたときにはとくにつよい痛みがあるわけではなかった。しかし、そのまま放っておくとはみだした部分が戻らなくなることもあるという。ひどいときには腸が壊死を起こして命にかかわることもあるので、なるべく早く手術をしたほうがいいという。

 

手術なんていやだなあ、と思っても、いちど出てしまったヘルニアが自然に治ることはないという。実際、いくら押し込んでも、だんだん外に出てくる頻度が増えていくのがわかった。くしゃみをしたり、鼻をかむときには、かならず片手で下腹部を押さえていなくてはならなかったし、外を歩くときも、なにかの拍子でぽこっと出てしまいそうになるので、手で下腹部を押さえておく。

 

しかし、人の多い街なかを歩いているとき、とくに女性の多いところで、自分の下腹部に手をあててもぞもぞやっているとなにやら勘違いされそうなので、ポケットに手を入れて下腹を押さえたりもしたが、これを鏡に映してみると、いかにも不自然で変態っぽく見える。かといって、始終私が下腹部を押さえているのは、医学的な理由があるからですとアピールして歩くわけにもいかない。そのうち、笑ってもぽっこり、咳してもぽっこり、深呼吸してもぽっこり、階段を上ってもぽっこり、おならしてもぽっこりと、いよいよ情けなくなってきた。

 

これはもう手術を受けるしかない。そこで、いろいろ調べてみると、ヘルニア手術といってもいろんな方法があることがわかった。一つは、昔から行われていた方法で隙間のできた筋組織を縫い合わせるというもの。ただし、これだと術後、傷口がつれたり、再発率が高いというリスクもある。

90年代になってから導入されたのは、筋組織を縫い合わせず、隙間にメッシュでできた人工補強材を入れて腸が出ないようにする方法である。これだと再発率が低く、術後の痛みも少ないという。ただし、このメッシュ法にもいくつかのパターンがあり、それぞれに一長一短がある。

 

あれこれ調べまわって悩んだ末、メッシュを用いた手術法の中でも、もっとも新しいという「ダイレクト・クーゲル法」という手術を受けてみようと決めた。ただし、この手術法を実施している病院は近所にはなく、結局、横浜にある病院まで行くことになった。それにしても、病気の知識から、手術法の詳細、それにその方法をとっている病院や医師についてまでネットで調べられるとは、まったく便利な世の中になったものである。

 

話変わるが、ぼくの子供の頃は「脱腸」というと、なんとなく恥ずかしい病気というイメージがあった。意味もわからず「やーい、だっちょ、だっちょー」といって、友だちをからかうのに使った記憶もある。日本の鼠径ヘルニア患者数は年間15万人くらいだというから、700人に1人くらいはヘルニア経験者ということになる。ただし、いまだに「恥ずかしい病気」というイメージは根強いらしく、ヘルニアになっていても医者にかかろうとしない潜在的な患者がけっこういるはずだともいわれる。痛みもないし、命にもかかわらないので、ついつい放っておきがちなのだろう。気持ちはわかる。

 
しかし、やはり医者には行ったほうがいい。ヘルニアだからって、恥ずかしがる必要などない。

 
次回も予定を変更して−−予定なんてないのだが−−鼠径ヘルニア予備軍の方々のために、鼠径ヘルニア手術体験記をお送りします。

 
 

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

真知さん、お久しぶりに読んでみたらなんということでしょう。
ショックです。
しかも、しかも、病気なのにこちらのお話を読んで、涙流して笑ってしまいました。私は鬼ですよ本当に。
笑いごとじゃないのにどうしても読んでいて可笑しくて笑ってしまいます。でも心配です。
お大事になさってください。

投稿: 三谷眞紀 | 2007年6月20日 (水) 10時01分

>三谷眞紀さま
笑いながらご心配くださりありがとうございます。おかげさまで手術もおわり、飛び出すことはなくなりましたが、手術跡がまだマンゴーの種みたいな形にふくらんでいるので、外見はあまり変わりません。女性もなるそうなので気をつけてください。鼠径ヘルニア手術編を近々書きますね。

投稿: 田中真知 | 2007年6月20日 (水) 13時25分

真知さん、初めまして。ヘルニアとは、大変でしたね。
私も、いわゆる脱腸タイプの小児ヘルニア経験者です。
確か盲腸の周りに腸が絡みつき、その真ん中の盲腸が
壊死する可能性があるということで、手術をしました。
2歳だったので、うん十年前のことです。

小さかったのですが子供心に怖かったのか、自宅出発前から
世田谷の国立第二病院(当時は小児科専門の病院だった)に入院し
入院時のこと、手術室の壁が水色だったこと、看護婦さんと数を
数えてるうちに麻酔で眠ったこと、抜糸が怖かったこと、退院し
帰宅して和式トイレに座れず、母が両足を持って庭でアーチ状の
用を足したことなどを覚えています。他の2歳時の思い出なんて
全くないことからも、どれだけ子供には恐怖だったの
かが分かります。

その後まもなく姉がやはりヘルニアで入院し、父が40代半ばで
ヘルニアで入院しました。母は今のところ無事なので、父方の
遺伝のようですが、父以外の3人の兄弟は誰一人ヘルニアには
なっていません。

再発について書かれていましたが、今のところ父、姉、私は
再発していません。でも父は腰を悪くしています。私も
ギックリ腰をやったことがあります。姉は腰が悪いとは
聞いてません。
今は当時とは比べ物にならないくらい医学も進歩してるし、
再発しないといいですね。

つまらない話題ですみませんでした。自分の家族以外で
椎間板ヘルニア以外の、脱腸ヘルニアのケースを聞いたのは
今回が初めてだったもので…。

残暑厳しくただでさえ億劫な時期に大変だと思いますが
どうかお大事になさって下さい。

投稿: 小児ヘルニア経験者 | 2007年9月12日 (水) 19時09分

>小児ヘルニア経験者さま
ありがとうございます。最近の手術では再発はほとんどないとのことなのですが、それでも大きなくしゃみが出るときはちょっと緊張します。傷口の盛り上がりもいつのまにかなくなりました。

「鼠径ヘルニアなんて恥ずかしくない 1」と書いておきながら、まだ「2」を書いていませんでした。折を見て書きます。

投稿: 田中真知 | 2007年9月18日 (火) 17時24分

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