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2007年12月

眠るひと

高校生の同居人がいる。要するに息子なのだけれど、これが朝まるで起きられない。学校までは自転車でも通える距離なので、そんなに早く起きなくてはならないわけではない。


遅刻をして困るのは本人なのだから、べつに起きないのはかまわないのだが、いやなのは、彼のセットした目覚まし時計のベルで、こっちがへんな時間に起こされてしまうことである。


どういうつもりなのかわからないのだが、彼は目覚ましの鳴る時間を朝の5時半とかにセットしたがる。完全に起き上がるまで寝床で煩悶する時間を考慮しているのかもしれないが、ほんとうの理由はわからない。いずれにしても、それで起きたためしはない。


彼の使っている目覚ましは、とても音が大きい。うるさくて隣の部屋にいてもこっちの目が覚めてしまう。さすがに本人も本能的にうるさいと感じるのか、隣の部屋からは目覚ましを時計をバチッと引っぱたく音が聞こえてくる。


しかし、リピート機能というのか、3分くらいたつとまた鳴り出す。またバチッと止める。まだ鳴り出す。またバチッ。これが10回くり返されると目覚ましは沈黙し、本人は安心して深い眠りに入る。このくらいの年齢の頃は、眠いのはわかる。逆にこっちは年のせいか、朝すぐに目が覚めてしまう。恨めしい。


あるとき、このままほおっておいたら、どのくらい寝るのだろうと思ってほおっておいた。数時間後、もぞもぞと音がしたのでのぞいていたら、ゆっくりと伸びをして起き出して、時計を見て「さいあくだ〜」とつぶやく声がした。昼の12時半だった。まるまる午前中遅刻だ。


それでも懲りたようすもなく、あいかわらず10回目覚ましを叩いて、ぐっすりと熟睡というパターンをくりかえす。蹴飛ばそうと思ったが、やはり暴力はいけない。


そこで、ある日ふと思いついて、カラーサインペンを何本かもってきて、寝ている彼のほっぺたに渦巻き模様やイラストなどをあれこれ描いてみた。これも愛の鞭である。


1時間くらいたってもぞもぞと起きる気配がした。すでに遅刻は必至なので、このまま出かけてしまったらどうなるだろうと観察していたのだが、トイレに入るときに鏡を見て気づいたようで洗面所でごしごし顔を洗っている。ずっと無言である。顔を洗い終わると、ドアをバタンと大きな音を立てて閉めて出ていった。


愛の鞭も効を奏さずその数日後、また眠りつづけている。途中でいちど起きようとしたらしいが、上半身が部屋から出かかったところで力尽きたようでうつぶせに倒れたまま動かない。すでに10時である。


と、そのとき呼び鈴が鳴った。出てみると作業服の男性が「ベランダの点検にまいりました」という。そんな話は聞いてない。あやしいと思って冷たくあしらうが、カレンダーを見てみると実際に点検の予定が書かれていた。


そこでその人を家の中に入れたのだが、ベランダまで行く途中、半分部屋からはみ出て倒れている高校生のすぐそばを通ることになる。点検の人は転がっている彼に気づいたはずだが、大人の対応というのか、なにもいわずにベランダに向かう。死んでいるわけではないので、こっちがあせる必要もないのだが、でもやはり気まずい。


点検の人が5分ほどで点検を終えて帰るときも、高校生はうつぶせに倒れたままである。でも、作業の人は、あたかもそこにはなにも存在しないかのように、どうもありがとうございました、またなにか問題があったらご連絡ください、といって帰っていった。


それからさらに30分くらいたって、彼がもぞもぞと起き出した。そして時計を見て、ぽつりと呟いた。


「さいあくだ〜」
 
 
 

 

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