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「孤独な鳥はやさしくうたう」+ジュバの蛍

 
こまめな更新を心がけるといいながら、また、間があいてしまった。ページの更新を待ってくださっていた方には、ホント申し訳ないです。今度こそ、そうならないよう気をつけます。といってもあまり説得力はないなあ。コメントをくださったみちこさん、かおりさん、「今週中」の予定が守れず、すみませんでした。でも、新刊のほうは予定どおり出そうです。


旅行人のホームページの編集長ブログでも告知されていましたが、新刊のエッセイ集『孤独な鳥はやさしくうたう』が6月25日に出る。本来なら、もっと余裕をもって原稿を仕上げていなくてはならなかったのだが、結局、一昨日の最終入稿の数時間前まで、あとがきやら、加筆や訂正やらにかかっていた。


今度の本はとてもいいものになったと思う。デザインもかっこよくて自分の本とは思えないほどである。表紙の不思議なオブジェはバリ島で知り合った美術家鈴木純郎さんの作品を使わせていただいた。


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中身はこれまで十数年にわたって書いた、おもに旅をめぐる文章の中から厳選したものに手を入れ、さらに書き下ろし一本を加えたもの。「バルセロナのストーカー」「星の王子の生まれたところ」「マラケシュのラヴェル」など硬軟とりまぜて、いろんなスタイルで書いたものを収めてある。


最近は旅をしながらリアルタイムでレポートを書くようなスタイルが流行っているが、旅の経験を寝かせることによって初めて見えてくるものもある。このブログしか知らない方にも読んでいただければと思う。よろしくお願いします。といっても、発売はまだ少し先なのだけど。

 

 
 
でも、これだけで終わってしまうと、久々だというのに、まるで宣伝のために更新したみたいなので、もう少し書く。先日、横浜でアフリカ開発会議というのが催され、それに合わせてアフリカ関係の特集が新聞やテレビなどでもたくさん組まれていた。BSでは1985年のライブエイドを立ち上げたボブ・ゲルドフのインタビューなども流れていたが、ちょうど、ライブエイドやバンドエイドが盛り上がっていたあの時期、ぼくはアフリカのスーダン南部にいた。


その頃、スーダン南部はいまもくすぶっている南北内戦の小康状態にあった。ぼくは当時、南部の村で調査をしていた人類学者の栗本さんといっしょに彼のフィールドの村を訪れ、熱射病になって南部の首都であるジュバに帰ってきた。もっとも首都といっても名ばかりで物資はなく、多くの建物はこわれかけていて、そこいら中から人糞の匂いが漂ってくるような荒廃した町だった。


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熱射病からようやく回復したとき、栗本さんに「パーティーがあるから行きませんか」と誘われた。パーティー? ジュバでパーティーとは意外だった。


夜、栗本さんとパーティー会場に向かう。街灯もないまっくらなサバンナの道をランドローバーで会場へと走る。その暗闇のむこうに明かりが見え、ドラムの音がきこえてきた。サバンナの真ん中に設けられたパーティーの会場だった。


集まっていたのは欧米の援助関係者、スーダン人の男女など、さまざまだった。かんたんなステージが設けられていて、アフリカ人の生バンドが演奏している。夏のビヤガーデンみたいな、心和む雰囲気だ。イスラム法を採用しているスーダンだが、キリスト教徒の多い南部ではウガンダから入ってくるビールが自由に手に入った。


病み上がりだったけれどもビールを飲むうちに気分がよくなってきて、スーダン人の女の子と踊る。そのとき唐突に流れてきたのが、当時日本でもうんざりするほどかかっていたアメリカ発のアフリカ援助のキャンペーンソング「We are the world」だった。


内戦のさなかにあるスーダン南部で、スーダン人の女の子と「We are the world」で踊るのは妙な気分だった。あの歌の詩には「アフリカ」という言葉は出てこないけれども、「命のために手を貸そう」とか「ひとつになって立ち上がろう」とか「愛が必要だ」といった文句が出てくる。


けれども、その歌詞を耳にしながら、めいっぱいおしゃれをした女の子とビールに酔って踊るのは、なにかちがう気がした。女の子に、「この歌、知ってる?」と訊くと、「知らないわ、でもいい曲ね」といった。そういわれると、なにもいえないので、そのままビールを飲んで踊りつづけた。「We are the world」は、そのあともなんどもくりかえしかかった。


夜が更けても、パーティーはつづいた。生バンドの演奏の番になると、ステージのライトが輝き、激しいドラムとベース音があたりに響きわたる。アフリカン・ポップス特有のせわしないリズムに合わせて、ギターが小刻みなフレーズをくりかえす。いった、ここはどこなんだろうと思ったそのとき、突然、バチンと音を立てて電気が落ちた。


同時にエレキベースとエレクトリックギターの音は消え、あたりは瞬時にして漆黒の闇に包まれた。その闇の中でドラムの音だけがどろどろと闇を揺さぶるように響いてくる。恐ろしいほどの濃密な闇だった。こんなすごい闇の底にいたとは思わなかった。


その闇に少しずつ目が慣れてくると、目の前にちらほらと光の粒が舞っているのに気づいた。なんだろう、これはと思って、あたりをみまわすと、そこいら中、まるで空の星が降りてきたかのように、おびただしい小さな光の粒が明るくなったり、暗くなったりしながらゆらゆらと舞っている。


Firefly !


だれかが声をあげた。一面の蛍だった。照明で明るかったときにはまったく気がつかなかった。


ドラムはいぜんとして押しよせてくる闇に抵抗するかのように激しいリズムを刻みつづけていたが、それもやがてやんだ。人びとの会話も闇の中に沈み、あたりはどこまでも広がる闇と、飛び交うホタルの光だけになった。見上げると、しぶくような凄まじい星空だった。


どのくらい、それがつづいただろう。しばらくすると突然電気が回復した。照明がつき、スピーカーから「We are the world」がふたたび流れはじめた。闇は消え、蛍はもう見えなかった。人びとが立ち上がって踊り出した。ぼくも立ち上がったが、踊りには加わらず、暗いサバンナのほうに50メートルくらい歩いていって、そこで闇のほうに向けて小便をした。数匹の蛍がちらほら、そのまわりを舞っていた。

……なんだか、書いているうちにエッセイみたいになってしまった。こういう発作的なことをしてしまうから、なかなか更新できなくなるんだな。まあ、そのようなわけで新刊のほう、まだ少し先ですがお楽しみに。更新も、します。

 
 
 
 
 
 

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「本」カテゴリの記事

コメント

梅雨時にゆっくりと転生を読み進めています。
不思議な世界に何ともいえない楽しさがあります。
新作も楽しみにしています。

投稿: yu- | 2008年6月 8日 (日) 13時29分

>yu-さま

ありがとうございます。
不思議な世界を堪能されてくださいね。

投稿: 田中真知 | 2008年6月 9日 (月) 12時13分

「孤独な鳥はやさしくうたう」早速図書館で予約入れました。「転生」はアマゾンランキングの影響か、図書館で何ヶ月か絶え間なく借りられていました。他地域図書館でも多いと思いますが、自分の地域では真知さん著作・翻訳本が多分全て入っています。生意気なようですが、「転生」ではそのわかり易い翻訳力に驚きました。今まで真知さん著作の本はほぼ全部読ませていただきましたが、「転生」で他の翻訳本もちょっと読んでみようと思います。

投稿: さっちゃん | 2008年6月12日 (木) 14時57分

>さっちゃんさま

訳文、読みやすいと感じてもらえてよかったです。謙遜でなく原文がいいのも関係しています。
図書館でたえまなく借りられていると聞き、うれしいです。その反面、実売部数が伸びないのはそのせいかなとちょっと心配でもあります。

投稿: 田中真知 | 2008年6月12日 (木) 18時23分

真知さん

「孤独な鳥はやさしくうたう」の刊行、おめでとうございます。長い間まっていた本なので、とても嬉しいです。

タイトルと表紙は、真知さん自身と文章ににとてもよくあっているように思います。バリで活躍されている鈴木さんのオブジェは、タイトルのせいか、不思議に原始キリスト教の絵画を彷彿させます。

聖ヨハネの言葉は、カスタネダの本の序文か何かで出会った記憶が朧気にありますが、よく覚えているのはラインホルト・メスナーのことを書いた真知さんの文章にもでてきましたことです。

ブログのコメントに書くようなことではないかもしれませんが、涙がでそうになるタイトルと表紙でした。

読むのがとても楽しみです。

ジュバの蛍もよいですね。

10年ほど前、シナイ半島の沙漠をベドウィンのガイドでトレッキングしているときに、夜な夜なバックパックほどもあるラジオを荷物持ちのムハンマドが聞いていました。静かな沙漠の夜に、その古いラジオから流れる雑音混じりのアラブポップやニュースは、正直耳障りでした。

ある朝、テントや食料などの荷物をラクダに載せる際、ムハンマドがそのラジオを大事そうに毛布に包み、かならず最後に載せていることに気づきまた。

その姿を見て、夜るにラジオに耳を澄ませている彼に、騒がしい町から来た私の苛立っているのがとても可笑しく思えました。


投稿: 河江肖剰 | 2008年6月13日 (金) 18時23分

>河江肖剰 さま
ありがとうございます。
鈴木さんのオブジェには名前があって「月の目の天使」といいます。
目がじつは月になってます(表面にクレーターもある)。
タイトルはいろいろ候補が挙がって、「サハラのチキン」という案もありました。
エジプト人はラジオが好きですね。
最初にカイロで住んだアパートの向かいにもムハンマドという門番がいて、赤いラジオを宝物のように抱えて、いつも聞いていました。

投稿: 田中真知 | 2008年6月14日 (土) 15時50分

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