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オンム・セティの翻訳本第二弾

新しい翻訳本を出した。1年くらい前に、ジョナサン・コットの『転生−−古代エジプトから甦った女考古学者』(新潮社)という翻訳本を出したが、あの本で取り上げられていたオンム・セティという人物について、彼女と最も親しかったエジプト人が新たにまとめた評伝である。

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転生者オンム・セティと古代エジプトの謎』(学研/2008.10月刊/税込み2310円)


前にも書いたがオンム・セティはイギリス生まれの考古学者。エジプト考古局の最初の女性職員となって、一九八一年に上エジプトのアビドスで亡くなるまで、エジプト考古学の歴史の生き証人として多くのエジプト学者たちの尊敬を集めていた人物である。

 
そうしたアカデミックな世界に身を置く一方で自分が古代エジプト時代、アビドスの神殿の巫女をつとめていたという記憶をもち、その記憶に導かれるように本当にアビドスの神殿の調査官になってしまったという人である。


前回の本の著者のジョナサン・コットはオンム・セティの死後に取材をはじめてあの本をまとめたのだが、こんどの本はオンム・セティと四半世紀にわたって交流し、彼女を物心両面からサポートしつづけた人物によるもの。同じ人物を扱っているので内容的に重なる部分はあるが、一人の人物を異なる視点から見ると、ずいぶん見方にちがいが出てくるのだなと訳していて興味深かった。


著者のハニーさんというエジプト人はオンム・セティがもっとも信頼し、自分の内面生活を隠すことなく打ち明けた唯一の人物だった。それだけに、オンム・セティの内面生活や人間的な側面、エジプトの歴史に対する見方などをいっそう深く掘り下げている。もし、コットの『転生』を読んで面白いと思った方なら、この本もきっと面白く読めると思うので、興味のある方は読んでいただければ幸いです。


新しい本のタイトルは上の写真にもあるように『転生者オンム・セティと古代エジプトの謎』である。しかし、言い訳めいてしまうが、この本の原題は「Omm Sety's Egypt」(オンム・セティのエジプト)である。

 
それがどうして「転生者オンム・セティと古代エジプトの謎」になってしまうかというと、そこに日本の出版界の事情がある。昨年出したコットの『転生』だって、原書のタイトルは「The Search for Omm Sety」(オンム・セティを探して)である。どこにも転生なんて言葉は出てこないのである。


訳者としても、どちらも、そのままシンプルに日本語訳したタイトルの方が、本の内容を素直に表していてずっといいと思うのだが、そういう意見はなかなか通らない。

 
こんどの本は表紙カバーもなんともいえないのだが、中身には、編集担当の方の尽力で、カラー口絵を入れたり、コラムを4本も書き下ろしたり、長めのまえがきとあとがきをつけたり、読みやすくなるよう構成を変えたり、わかりやすくなるよう説明をくわえたりと、いろいろ工夫を凝らした。タイトルと表紙で違和感を感じる方があるかもしれませんが、中はデザインもふくめて、とてもいいので、くじけないでくださいね(?)。最後の方なんて泣けます。


ところで、タイトルが『転生者……』となると聞いたとき、とっさに思い出したのは中島らもの小説『ガダラの豚』である。その中で、物語に登場する民族学者が本を出版するくだりがある。手元に本がないのでうろおぼえなのだが、その学者はアフリカの民間呪術の研究者で、自分の論文に『アフリカにおける共感呪術の民俗学的事例の研究』といったようなタイトルをつけて編集者にわたすのである。

 
ところが、それが書店にならんだときにはなぜか『ズバリ、呪で殺す!』というようなタイトルになっている(あとで確かめます)。しかし、そのおかげか地味な論文であるはずのその本は爆発的に売れて、その学者はテレビで引っ張りだこになり、一躍お茶の間の人気者になってしまうのだ。まあ、それで本当にたくさんの人が読んでくれるのならいいのだが、はたしてどうなのだろうか。


話は変わるが、やはり今回のことで思い出したことがある。昔うちにポール・モーリア全集というレコードがあった。たしか母親が通販で買った10枚組くらいの箱入りのセットだった。高校生の頃はピンク・フロイドやジェネシスなど聴きながら、ときどき気が向くとポール・モーリアをかけたりしていたが、その中に収められていた解説がおもしろかったのを覚えている。

 
それは彼らのヒット曲で「オリーブの首飾り」という曲についてだった。チャラララララ〜というポピュラーなメロディーは、だれでもいちどは耳にしたことがあるはずだ。いまでも、よく手品ショーのバックなどに使われる。ここなどで聞ける。


で、このオリーブの首飾りだが、添付されていた解説によると、元のタイトルは「El Bimbo」(エル・ビンボー)というものだったらしい。オリジナルを演奏していたのは「ビンボー・ジェット」(!)というグループで、最初に日本で発売されたときのタイトルは「嘆きのビンボー」というものだったそうだ。


で、当然ながら、まったく売れなかったそうだ。もちろん「ビンボー」とは日本語の「貧乏」とは関係なく、イタリア語で「ベイビー」といった意味らしいが、音が同じだからやはり連想してしまう。なにしろ「嘆きの貧乏」である。

 
でも、曲自体はいいので、ポール・モーリア楽団が取り上げるにあたって日本語のタイトルを新たにつけることにした。そこで原題とまったく関係のない「オリーブの首飾り」というタイトルにしたところ、爆発的なヒットになったということが黒鉄ヒロシの描いた貧乏人のイラスト入りで書かれていた。


そのようなわけなので、「オンム・セティのエジプト」あらため「転生者オンム・セティと古代エジプトの謎」もよろしくお願いします。


 


プチ賭記:
一週間以内に次の更新をするという前回の賭だが、期限ぎりぎりで勝てました。これでプラス3000円です。次は一週間以内の更新に大胆にも3000円!

 
 
 

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コメント

ちょうど今「転生」の方を読んでいるところです。新しい本も楽しみです。

「真珠の首飾り」の話、ほほ~、でした。
"黒鉄ヒロシの描いた貧乏人のイラスト入り"
が、ものすごく見たい!!(笑)

投稿: ゆうこ | 2008年10月25日 (土) 22時25分

>ゆうこさま

ありがとうございます。
黒鉄ヒロシの描いた貧乏人のイラストは、あの独特のタッチで、いまでいうホームレスのような人物を描いたものでした。
なんでポール・モーリアの解説のイラストが黒鉄ヒロシだったのかは謎です。
あのポール・モーリア全集はどこにいってしまったのだろう。

投稿: 田中真知 | 2008年10月27日 (月) 13時30分

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