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オバマとベールと黄熱病

取材仕事で2年ぶりにエジプトに来ている。ちょうどオバマ大統領のエジプト訪問直前にエジプト入りしたので、こっちの新聞やテレビでもオバマ関連のニュースが目立った。撮影で大ピラミッドに入ると、オバマがくるのに備えて玄室に電話線を引く工事が行われていた。ピラミッドを訪問する予定とのことだが、いくらなんでもオバマがピラミッド内部の細い通路を腰を曲げて上って、蒸し暑い玄室までやってくるとは考えられない(実際、内部には入らなかった)。


ただ、オバマがカイロ大学で行った演説はエジプト国内ではすごい視聴率だったようで、タクシーの運転手なども、オバマはいいことをいう、と上機嫌だった。オバマの演説はイスラム教徒に呼びかける内容だったそうだが、エジプト国民の一割を占めるコプト教徒についてはなにかいっていたのだろうか。演説の内容をくわしく読んだわけではないのでわからないが。


オバマ来訪に備えてというわけではないだろうが、空港や遺跡の入り口など、いろんな施設が新しくなっているのにはおどろいた。カイロ空港にはメタルフレームにガラス張りの新しいターミナルビルができていた。床は磨き上げられ、スターバックスみたいな、おしゃれなカフェもある。昔の上野駅のような古色蒼然とした、かつての空港の雰囲気も好きだったのだが、時代は変わるのだなあ。いま、これを書いているのだってカイロ市内のマクドナルドである(自分のコンピューターなので、もちろん、ひらがな入力!)。カイロのマクドナルドでは、いまや全店無線ランが通じている(遅いし、不安定だが)。ここの女子大生たちもパソコンを持ち込んでいる。


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街並みの雰囲気はあまり変わったようには見えない。自動車の数がますます増え、以前から手の施しようもなかったカイロの街の渋滞がさらにひどくなった。あっちでプップー、こっちでプップーとクラクションのとぎれる暇がないのも以前と同じだ。


渋滞がひどいので移動には地下鉄を使うことが多い。地下鉄はたしか2000年くらいに開通したはずだが、この国では日本などに比べると物が古びるスピードが10倍くらい速いのではないかと思うほど、車両といい、窓や座席といい、もう50年もたったのではないかと思うほどに、すっかりくたびれている。路線を示したシールははがれ落ちたり、一部読めなくなっていたりするし、プラスチックの座席は黒ずんで、亀裂が入っていたりする。こう見ると、日本の地下鉄や電車はきちんとメンテナンスしているのだなと、あらためて思う。列車がホームに着くと、人が降りる前に乗り込んでくるのは、以前と変わらない。

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あと、2年前との大きなちがいは携帯の普及である。ただの携帯ではなく音楽機能のある端末が普及したのか、車内で携帯で音楽をかけているエジプト人がけっこういる。それもヘッドホンなど使わないで、携帯のスピーカーで堂々と鳴らしている。となり同士でちがう曲をかけていることもある。携帯のスピーカーだから音質はよくないし、音量を上げれば音が歪む。でも、だれも注意しない。音に対して寛大なのはあいかわらずである。


携帯でクルアーン(コーラン)を流している人も多い。突然、隣の座席に座っている人のポケットからクルアーンが鳴りだしたりもする。携帯の着信音をクルアーンに設定しているのだ。タクシーで運転手がラジオでクルアーンを流していることはよくあるが、着信までクルアーンとは。もちろん、そこには信仰心もあるだろうが、くわえて周囲に自分の信仰心をアピールするという見栄もあるのだろう。


あと、街中でベール(ヒジャーブ)をかぶって髪を隠している女性の姿が、さらに増えた。ベールの着用率は1990年代から増えてきたといわれるが、いまでは若い女性の8割近くがベールをしているのではないか。この現象をイスラム回帰と見るむきもあるが、むしろ、ベールが宗教的シンボルではなく、ここの女性のファッションとして定着したというほうがあたっているように思う。現にベールのデザインは以前よりバラエティーにとんでいるし、それがいちがいに宗教回帰と思えない理由に、ベールはしているけれど、ボディーラインが浮き出るようなぴっちりした服やジーンズの若い女性の姿が目立つ。べール&ボディコンである。

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話はがらりと変わる。このあとスーダンに行くので、先日、黄熱病の予防接種を受けにいった。日本だと接種場所がかぎられ、接種にかかる代金が約1万円と高い。カイロだとその数分の一ですむ。ただし、接種場所は病院ではなく、新市街にある古いホテルの中。いかにも怪しいのだが、ずいぶん昔、やはりそこで接種を受けて、公式なイエローカードをもらった記憶がある。いまもやっていると聞いて、足を運んだ。


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くだんのホテルは看板は出ているものの、中はがらんとして真っ暗で営業している様子もない。奥の方では壁をこわしている人もいて、ほとんど廃墟と化している。つぶれたのかと思って帰ろうとしたら、中にいた人が注射はあっちだと教えてくれる。教えられた方へ行くと、奥に一室だけ明かりがついている。六畳ほどの小部屋に小さな机と椅子があり、そのまわりでベールをした普段着のエジプト人女性が三人でおしゃべりしている。


ぼくが入っていくと、みながいっせいに振り向く。「ここで黄熱病の接種をしてくれると聞いたのですが」というと、ここだ、ここだといって、すわるようにいわれる。どこに行くのかと訊くので、スーダンに行って、それからエジプトに戻ってきて、日本に帰る予定だというと、机の前にいた女性が「それなら3本だ」といって、指を3本立てる。


3本? 聞けば、「アフリカ」からエジプトに戻ってくる場合には、黄熱病のほかにコレラと髄膜炎の接種が必要だという。そんな話は初耳である。日本の外務省では接種が義務化されているのは黄熱病だけのはずだと反論しても、「エジプトに戻ってくるのなら3種打たなくてはだめだ」の一点張り。しかも、その3種をいちどに打つという。


そんなの大丈夫なのか。日本ではコレラだって二回に分けて打つ。黄熱病はたしかほかの接種との間隔を一週間くらい空けるんじゃなかったか。それにまとめて3本も注射してちゃんと免疫ができるのか、副作用はどうなのか。説明を求めても、「だいじょうぶ、怖がらなくていい。先月まではさらにインフルエンザの接種も必要だったので4本だった。あなたは3本なんだからラッキーなのよ」という。答えになっていない。医学的におかしいのでは、となおも反論するも、その女性は「私は医者よ、医者の私がいっているのだからだいじょうぶ」という。そのとき初めて彼女が医者だと知った。彼女は、これはエジプトの法律にのっとって行われることなのだ、断ればイエローカードは発行できないという。うーん、ほとんど脅迫ではないか。


押し問答するも、こちらもイエローカードが必要なので結局、観念する。注射代135ポンド(約2500円)を払うと、看護婦らしき別のエジプト人女性がにこにこしながら、冷蔵庫からワクチンと3本の注射器を取り出して、左腕に二本、右腕に一本、たてつづけに注射。「腕がだるくなるかもしれないけど、それはノーマルだから」といわれイエローカードを渡され、「バイバイ」といわれる。


そのあとネットで調べてみると、黄熱病の接種についての日本語の解説ページに、「接種後10日目から10年間有効です。接種しますと、1ヶ月は何も注射できませんのでご注意下さい」とある。1ヶ月だって? あーあ、なんてことだ、と思っても、もう後の祭りである。発熱などはないし、気持ち悪くもならなかったが、腕はだるいし、やはり不安なので翌々日に大使館の医務官に電話して聞いてみる。


医務官は、3本ですか、といってちょっと黙っていた。そのあと「ただ、緊急の場合には同時に注射をすることはあります。副作用のリスクという点からすれば望ましいことではありませんが、それがもとで免疫ができないということはないとおもいます。まあ、二日たって発熱などないようでしたら大丈夫でしょう」とおっしゃる。「緊急の場合」ではけっしてなかったはずだが、とりあえずは、ひと安心する。


カイロの居候先のエジプト在住ウン十年のWさんに話すと、「それは交渉しなくてはいけませんな」といわれる。「冗談まじえて、エジプト人のあんたたちは強いから3本でも大丈夫だけど、日本人は弱いから1本で十分なんだとか、この前、黄熱病だけしか打っていなくてエジプトに来た日本人の知り合いがいたとか、うそでもいいので、いろいろいうことです。実際には黄熱病だけでも空港で問題になることはないはずですから。まあ、そのときに笑いやジョークをまじえながらするのですよ。そうしないとこっちの人は意地になりますからね」。


さすがに、ジョークをまじえるゆとりはなかったな。Wさんによると、カイロ空港でも黄熱病の接種は受けられるそうだが、その場合イエローカードが発行されないこともあるらしい。「それじゃ受けたことを証明できないので意味ないじゃないですか」というと、「まあ、そうですな、ははは」という。エジプトはあいかわらず、深いのか浅いのかわからない。

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「旅行」カテゴリの記事

コメント

まちさん
今エジプトなんですね!リアルタイムで旅のエッセーが読めるとは、なんとも贅沢な気分です。
今や、カイロにも地下鉄があるんですか~!
そして、「ベール」は女性がかぶらされてるものだと
思いこんでいました。おはずかしいdespair

予防接種をいっきに三本もうって
準備万端ですね!このあともお気をつけて!

投稿: ゆうこ | 2009年6月13日 (土) 20時51分

ベールにボディコンの女性って、隠してるぶんかえって色っぽいのではないでしょうか。
パソコンを打っている女子学生たちのベールも色柄あざやかで、おしゃれですね。
エジプトの空気のせいでしょうか、真知さんの文章が若やいでいるように感じます。

投稿: かおり | 2009年6月15日 (月) 15時48分

今日僕も、秋からの世界放浪に備えて日本脳炎の予防注射を打ってきました。黄熱病の注射はエジプトへ行ってからそこで考えて、アフリカへ行くようなら打てばいいですね。安いし、参考になりました。
それから、ひらがな入力のできる人は頭がいい人だと思います。僕もそのほうが少ない数で打ち込みができるからいいやと思ったのですが、KEYを覚える数がローマ字入力の倍なので、断念しました。

投稿: ゴン | 2009年6月16日 (火) 15時57分

ちょっと久しぶりにサイトへ来てみましたら・・・
エジプトへ行ってらっしゃるんですね。

羨ましいなぁ~ と思いましたが、注射の3本打ち(!)コワイです・・・

アヒルさんも同行しているのでしょうか? まさかね。
つつがなく旅行ができますように!

投稿: catalina | 2009年6月19日 (金) 15時35分

>ゆうこさま
酷暑のスーダンから戻りました。予想していたことですが、注射の証明書はエジプト再入国の折にはまったくチェックされませんでした。なんのために3本も打ったのか。。。

スーダンはもっとも暑い季節で連日43度を超え、夜になっても38度。外に出るとサウナの中を歩いているようでした。ミネラルウォーターのボトルは、持ち歩いているだけでたちまちお湯になりました。
スーダンの話はおいおい書きます。


>かおりさま
そうですね。以前テレビで見たのですが、ムスリムの女性向けにモダンな服をつくるファッションデザイナーも活躍しているそうです。
「若やいで」いますか。やはり歩き回って刺激があるせいかもしれませんね。


>ゴンさま
世界放浪、どうかお気をつけて。予防注射の件ですが、ゆうこさまへのコメントの返事でも書いたように、エジプトでは結局チェックされませんでした。でも、アフリカへ行くなら打っておいた方がいいと思います。とくに肝炎と破傷風と狂犬病は打っておいた方がいいかもしれません。あとマラリアの薬(ナイロビなどで手に入ります)も忘れずに。


>catalinaさま
こんにちは。あひるさんには会っていませんが、絵はがきが来たのでプロフィールの写真のところに載せておきました。消息がわかったら、またここでお伝えします。

投稿: 田中真知 | 2009年6月23日 (火) 21時36分

真知さん、今スーダンですか。スーダンでもネットに自分のコンピューターでアクセスできるんですね。私は、昨日オーストラリアから帰国しました。オーストラリアはもちろんネットができますが、山の中のキャンプ場でもWiFiできるところがあって、さすがだと思いました。

ところで、今朝の朝日新聞に、ウルトラビジネスウーマンの勝間和代さんがスーダンを訪れ、スーダンは今後投資の対象になると踏み、自分と仲間の印税の20%を援助する活動を開始したとありました。スーダンは発展性がありそうですか。それにしても勝間さん、元気がありますね。スーダンまで行っちゃうんだからねえ。

投稿: 某旅行誌編集長 | 2009年6月25日 (木) 09時48分

予防注射の3本打ちなどまだまだです。アフリカに行く前にパリのパスツール研究所で5本打ちをしたことがあります。髄膜炎のワクチン(?)は日本に在庫がありません。国祭化社会、などと言っていますがこの件については日本は非常に遅れている、と思います。アフリカで髄膜炎が発症している地域の手前の小屋で強制的に注射を打たれそうになりましたがパスツールの証明書があったのでまぬがれたことがあります。小屋は非常に不潔で職員もだらけていて注射針をちゃんと換えているのか、と思うほどいいかげんな接種場でした。

米軍では任地におもむく兵隊に日本で二回、三回にわけて行う予防注射を一発でやっているそうです。6,7種類を一回でやっちゃうのではないかなあ。

先月、黄熱病の接種を横浜で受けました。予防注射をやっていることを何も説明されていないビルの一室を苦労して探しあて注射を打ってもらっいました。場所のわかりずらさはカイロのそれに似ていますね。接種料金は1万円弱、収入印紙を買って申し込み書に貼りました。約1万円は高い!オフィシャルな泥棒にあったような気がしました。最近までエジプトでは黄熱病接種は只だった、と思います。日本にエジプトの懐の深さを学んで欲しい、と横浜の検疫所で思った。

投稿: 小松田堂鐘 | 2009年6月25日 (木) 16時01分

>某旅行誌編集長さま
いや、スーダンではアクセスしませんでした。ネットカフェはあるのですが、スピードが異様に遅いようなのでコンピューターはカイロに置いていきました。

勝間さんが訪れたのはたしか南スーダンだったと思います。投資の対象というのはたしかにそのとおりで、南北の平和協定が結ばれてからものすごい量の投資が流れ込んでいるのは事実です。とくに中国。さらにトルコ、リビア、湾岸等々、ただ、それが結局ドバイ型のバブリーな箱物系に集中していて、ものすごくアンバランスです。巨大なショッピングモールや近未来型ホテルが次々とできている一方、いまだにハルツームには下水道すらありません。そのあたりは、書き出すと長くなるので、おいおい書きます。
でも、スーダン人はあいかわらず、ものすごく親切でした。


> 小松田堂鐘さま
5本打ちですか!!? 3本打ちでおののいている場合ではありませんね。日本で黄熱病を受けられる場所はとても限られていますね。とくに熱帯病については遅れていて、マラリア原虫の診断すら一般の病院ではできないと聞いたことがあります。

実際のところスーダン北部は、とくにいまのような乾季の酷暑の季節には、蚊も一匹もおらず(水がゆだってしまうのでボウフラが孵化できないのでしょう)、ハエすら暑すぎるのか少ないです。


投稿: 田中真知 | 2009年6月25日 (木) 18時48分

カイロ地下鉄 参考資料です。

http://www.kinkisharyo.co.jp/ja/products/sh/sharyoukaigai.htm     

http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=83399 

現在では、
1号線・2号線(はじめから日本設計・製造車両を使用)
ともに、近鉄の子会社である、
近畿車輛が、補充車両を受注・納入しています。

計画中の3号線は、三菱商事が受注し、
これも近畿車輛のものが納入される予定になっております。
CAIまで延びる予定とのことですが、いつ開業することやら。

東大阪の近畿車輛の工場では、
輸出前のエジプト地下鉄車両の姿が、
時折見られるそうです。

http://kblue.at.webry.info/theme/e71aee07b1.html 

カイロでのADSLの一般的普及は、2003年、
マクドナルドでの無線LANサービスの開始は07年です。

ADSLは、現在256Kbpsから8Mbpsまで契約選択肢がありまして、
マクドナルドにて、私一人がPCを使用したときの下り実測で、20KB程度でしたので、おそらく256Kbpsの回線のものかと思われます。

投稿: まる。 | 2009年7月 3日 (金) 12時30分

>まるさま
カイロではお世話になりました。
地下鉄情報、ありがとうございます。
3号線はいつできるのでしょうね。
いつできるといえば、カイロ博物館の移転計画も進展ありませんね。
それでも、巨大ショッピングモールができたり、空港が新しくなったりとカイロが刻々と変化しているのは感じます。

マクドナルド(アメ大前)の無線ランは午後になると利用者が増えるせいか不通になりがちでした。

投稿: 田中真知 | 2009年7月 6日 (月) 16時06分

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