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小瀧達郎写真展@ギャラリー・バウハウスを見る

今年の初めに横谷宣さんの個展をした神田のギャラリー・バウハウスで、オーナーの小瀧達郎さんの写真展が開催されている(10.20-12.26)。隅々まで小瀧さんの美意識で統一された、あの硬質な空間に彼自身の写真が展示されたらどんな雰囲気になるのだろうかと期待しながらギャラリーに足を運んだ。


穏やかな静謐さの内に緊張をはらんだ美しいモノクローム写真が展示された地下の空間が無類に心地よい。彼がいくたびとなく訪れたイギリスの海辺の保養地ブライトンを撮影した写真からはノスタルジックでありながら、どこかこの世の風景ではないような静けさが満ちわたっている。

 
ちなみに、これはブライトンの若者たちと警官隊との間に緊張が走っている場面だそうだ。ブライトンは1960年代にモッズ文化の中心となったところ。ぼくは見ていないのだが、「さらば青春の光」という映画の舞台にもなっている。

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©Tatsuo Kotaki

小瀧さんの写真は、いずれも目を近づけると、まるでそこに無限が封じ込められているかのように、緻密にたたみ込まれたディテールがどこまでも深く見えてくる。印刷やモニターではけっして表現できない、その細部の圧倒的な深み。写真とは目に映るものをとおして、そこに映らない空気や香りを伝えるものだということが、精妙な化学反応によってつくられる細密なモノクロームの陰影から匂い立ってくる。この世界を知っているからこそ、写真家は暗室にこだわるのだろう。


小瀧さんの写真を初めて目にしたのは80年代後半の「マリ・クレール」誌上だった。いまは亡きスーパーエディター安原顕さんが編集していた頃のマリ・クレールはバブルの上げ潮もあったのだろうが、よくも悪くも知や文化というものがファッショナブルになりうるという幻想を与えてくれた。その中にあって、小瀧さんの静かな写真には、そんな派手派手しい時代にからめとられず、人のささやかないとなみを、距離をおいて、そっといつくしむようなやさしさが感じられた。

 
この写真もいいなあ。ピンクフロイドのアニマルズのジャケットにも出てくる工場だけど、なんだか神殿のようだ。

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©Tatsuo Kotaki

いまは写真家にとって幸福な時代ではない。安くて高性能なデジカメの登場によって写真表現のハードルは低くなり、だれでもそれなりの写真を撮れるようになった。それは悪いことではないけれど、そのことが写真なんてだれでも撮れるのだという思い込みを流布させ、プロの撮った写真も素人の撮った写真も同じレベルで語られるようになってしまったような気がする。


写真はシャッターチャンスがものをいう、という面もたしかにある。だがその一方で、途方もない手間と気の遠くなるような試行錯誤の果てに、やっと満足のいく一枚のプリントができあがるという世界も存在している。そうした手間と時間をかけないことには、けっして表現できない世界というのがある。それはほんのわずかな表現の綾なのかもしれないが、そのかすかなニュアンスに執拗にこだわり、そのより深い表現を可能にするかどうかが、おそらく職人としての写真家の存在意義なのだろう。


印刷媒体とモニターでしか写真にふれる機会がなくなっているいま、そうした微細な、しかし厳然としたちがいを感知する感覚をやしなうには、やはり質の高いオリジナル・プリントにふれることだと思う。写真を印刷やモニターで見るのと実物を見るのとは、まったくべつの経験である。妙な言い方だが、印刷やモニターで見る写真は有限なのだ。印刷というドットの集まりをいくら細かくしても、それは計量可能な有限の範囲を広げたにすぎない。一方で、オリジナル・プリントは見れば見るほど無限にむかって開かれているのを感じる。とくに小瀧さんの写真はそうだ。この世の時間から切り離された濃密な静謐を味わいたい方は、ぜひ足を運んでみてください。


小瀧達郎写真展(VISIONS OF UKーー英国に就いて)は神田ギャラリー・バウハウスで12月26日まで。


久々のテンポのいい更新ペースです♪ その勢いで「カッパの皿回し」もなんと半年ぶりに更新しました。今回は渾身の力をこめたレディー・ガガ(Lady Gaga)です。そちらもどーぞ。


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コメント

「美しいをさがす旅にでよう」を今読み終えました。これまで眺めていた世界が少しだけ違って見ることが出来るのでないかと思います。ありがとうございました。

投稿: lovevender | 2010年3月 3日 (水) 18時12分

>lovevenderさま
ありがとうございます。返事が遅れて、すみませんでした。
気持ちのありかたが変わると、世界の見え方も変わりますね。
ただ、社会のシステムは、世界はだれにとっても変わらないという前提でできているので、なかなか、そうは思いにくいのですけどね。

投稿: 田中真知 | 2010年3月 8日 (月) 12時41分

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