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2010年4月

日本は世界5位の農業大国

いつものことだが、また隔月刊ブログになってしまいました。年の初めに、目標は週一回とかいっておきながら面目もありません。雪の壁紙もすっかり季節外れになっていたのに、なんと昨夜雪が降って、思わずシンクロしてしまいました。そのせいというわけではありませんが久しぶりの更新です。


さて、今回はとてもうれしいお知らせである。以前、なんどか書いたことがあるが、エジプトに暮らしていた頃に知り合ったアサカワ君がすごい本を出した。本の話をする前に、以前も書いたけど、アサカワ君のことをちょっと書いておく。


アサカワ君はぼくの若い友人だ。同時に、もっとも恐るべき友人でもある。カイロで知り合った頃、アサカワ君はまだ19歳だった。高校を卒業して日本の大学には行かず、カイロ大学に留学した彼は、それからエジプトをほぼ国外追放同然に出国するまでの数年間、あらゆる意味で、ぼくの度肝をぬきつづけた。


しょっちゅう会っていたわけではないが、たまに会うと、パレスチナ自治区でハマスと軍事教練していましたとか、秘密警察に捕まって拷問受けていましたとか、つぎつぎと過激な話が出てくる。本人はいたっておだやかで、ハッタリをかましたり、命知らずというタイプではまったくない。ただ知的好奇心を行動にうつすことに、ためらいがまるでないので、傍目にもひやひやさせられた。


そのアサカワ君の恐れを知らないエジプト生活のことや、その後のイラクやモロッコや日本の話については10年くらい前に「旅行人」誌に書いた記事(1999年7月号)があるので、アップしておく。あと、以前書いたこの記事にもリンクを張ってあるが本人の怖れを知らないインタビューもあるので、まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。


で、そのアサカワ君、いや、これからは堂々と浅川君と書こう、その浅川芳裕君が書いた本がこれである↓

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

もうすでにかなり話題になっているので、ご存じの方もいるかもしれない。発売1カ月でもう5刷だという。アラブを舞台に活躍していた彼が、どうして農業にかかわることになったのかは、話が長くなるので省略する。でも、彼を多少なりとも知っている身からすると、この本は、いかにも浅川君らしい、いや、浅川君にしか書けない本である。


日本の農業や食糧問題を語る上で、無条件に前提とされてきたものに「食糧自給率の向上」という概念がある。人口爆発と、それに伴う食糧問題に対処するために、食糧自給率を上げなくてはならないーーそれは与党野党のちがい、生産者と消費者のちがいにかかわらず、当然のこととされてきたといっていい。


だが、彼はここで食糧自給率というのが、いかに根拠のない指標であるか、農水省がある種の意図を持って構築した、きわめて恣意的な指標であるかを、膨大なデータと緻密な分析をもとに厳密に明らかにしている。食糧自給率向上という思想の背景には、日本の農業が弱い産業であるかのような印象を国民に植え付け、それによって生じるさまざまな利権が存在している、と浅川君はいう。

Pict0154

 

彼にいわせれば、日本の農業はけっして弱い産業などではない。むしろ、国際的な競争力を十分持ちうる強い産業である。ただし、その産業の健全化と発展をはばんでいるひとつの思想が、農水省が金科玉条のように掲げる食糧自給率向上というコンセプトにあるという、ほとんど指摘されることのなかったからくりを、おどろくほどあざやかに、あばいて見せてくれる。

 

農業というのはわかりにくい世界だ。食糧生産だけではなく、行政、地域社会、政治など、いろいろな問題や思惑が複雑にからみあって、視点によって見え方がまるで異なる。補助金がらみの生臭い世界があったり、ロマンチックな幻想を投影されたり、票田として利用されたりと、時々に応じていろんな顔がある。この本が、そうした農業の複雑さのすべてを解きほぐしてくれるわけではないが、もやもやしていた霧の一端はすっきりする気がする。少なくとも、農業の健全な発展が、いまの政策からは生まれるはずがないことは、よくわかる。



農業への関心のあるなしとは関係なく、感心させられたのは、その論理の組み立て方のみごとさである。それは鋳型の中に事実をレトリカルにはめ込んでいくのではなく、整体師が骨格や筋肉のゆがみやズレを元に戻していくような方向での論理展開である。だから、農政の情けない現実には苦い思いにさせられるものの、読後感は気持ちいい。大学生は『論文の書き方』なんて本を読むくらいなら、この本をじっくり読んだほうが、はるかに論理的思考が身につくはずだ。


数日前に、この本の出版記念パーティーがあった。出かける直前に自転車で激しくこけてぺたぺた絆創膏を貼って、膝が曲がらない状態で会場に出かけた。会場には政治家から農業経営者から外務省から大手広告代理店からNHKから新聞社の編集委員から通信社から大使館から出版社から農協から大学教授から銀行から大手企業の社長から法律事務所から自治体から150人をこえる人たちが集まった。10年足らずでつくりあげたその人脈の広さにも驚いたが、その中で、きみがパレスチナでハマスに縄跳びを教えたり、サダム・フセインの息子の親書を手にイラクで映画作りをするために駆け回っていたことを知る、ただ一人の身としては、言葉にいいつくせない感慨があった。

Party_2


農業に関心があってもなくても、これはほんとにすごい本なので、ぜひ読んでください。
某編集長も感想を書いています。


 
話変わりますがツイッターというのに登録しています。ブログと同じで、なかなか更新できないのですが、最近は月刊から週刊くらいに頻度が上がっています。


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