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日本は世界5位の農業大国

いつものことだが、また隔月刊ブログになってしまいました。年の初めに、目標は週一回とかいっておきながら面目もありません。雪の壁紙もすっかり季節外れになっていたのに、なんと昨夜雪が降って、思わずシンクロしてしまいました。そのせいというわけではありませんが久しぶりの更新です。


さて、今回はとてもうれしいお知らせである。以前、なんどか書いたことがあるが、エジプトに暮らしていた頃に知り合ったアサカワ君がすごい本を出した。本の話をする前に、以前も書いたけど、アサカワ君のことをちょっと書いておく。


アサカワ君はぼくの若い友人だ。同時に、もっとも恐るべき友人でもある。カイロで知り合った頃、アサカワ君はまだ19歳だった。高校を卒業して日本の大学には行かず、カイロ大学に留学した彼は、それからエジプトをほぼ国外追放同然に出国するまでの数年間、あらゆる意味で、ぼくの度肝をぬきつづけた。


しょっちゅう会っていたわけではないが、たまに会うと、パレスチナ自治区でハマスと軍事教練していましたとか、秘密警察に捕まって拷問受けていましたとか、つぎつぎと過激な話が出てくる。本人はいたっておだやかで、ハッタリをかましたり、命知らずというタイプではまったくない。ただ知的好奇心を行動にうつすことに、ためらいがまるでないので、傍目にもひやひやさせられた。


そのアサカワ君の恐れを知らないエジプト生活のことや、その後のイラクやモロッコや日本の話については10年くらい前に「旅行人」誌に書いた記事(1999年7月号)があるので、アップしておく。あと、以前書いたこの記事にもリンクを張ってあるが本人の怖れを知らないインタビューもあるので、まだ読んでいない人はぜひ読んでみてください。


で、そのアサカワ君、いや、これからは堂々と浅川君と書こう、その浅川芳裕君が書いた本がこれである↓

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

もうすでにかなり話題になっているので、ご存じの方もいるかもしれない。発売1カ月でもう5刷だという。アラブを舞台に活躍していた彼が、どうして農業にかかわることになったのかは、話が長くなるので省略する。でも、彼を多少なりとも知っている身からすると、この本は、いかにも浅川君らしい、いや、浅川君にしか書けない本である。


日本の農業や食糧問題を語る上で、無条件に前提とされてきたものに「食糧自給率の向上」という概念がある。人口爆発と、それに伴う食糧問題に対処するために、食糧自給率を上げなくてはならないーーそれは与党野党のちがい、生産者と消費者のちがいにかかわらず、当然のこととされてきたといっていい。


だが、彼はここで食糧自給率というのが、いかに根拠のない指標であるか、農水省がある種の意図を持って構築した、きわめて恣意的な指標であるかを、膨大なデータと緻密な分析をもとに厳密に明らかにしている。食糧自給率向上という思想の背景には、日本の農業が弱い産業であるかのような印象を国民に植え付け、それによって生じるさまざまな利権が存在している、と浅川君はいう。

Pict0154

 

彼にいわせれば、日本の農業はけっして弱い産業などではない。むしろ、国際的な競争力を十分持ちうる強い産業である。ただし、その産業の健全化と発展をはばんでいるひとつの思想が、農水省が金科玉条のように掲げる食糧自給率向上というコンセプトにあるという、ほとんど指摘されることのなかったからくりを、おどろくほどあざやかに、あばいて見せてくれる。

 

農業というのはわかりにくい世界だ。食糧生産だけではなく、行政、地域社会、政治など、いろいろな問題や思惑が複雑にからみあって、視点によって見え方がまるで異なる。補助金がらみの生臭い世界があったり、ロマンチックな幻想を投影されたり、票田として利用されたりと、時々に応じていろんな顔がある。この本が、そうした農業の複雑さのすべてを解きほぐしてくれるわけではないが、もやもやしていた霧の一端はすっきりする気がする。少なくとも、農業の健全な発展が、いまの政策からは生まれるはずがないことは、よくわかる。



農業への関心のあるなしとは関係なく、感心させられたのは、その論理の組み立て方のみごとさである。それは鋳型の中に事実をレトリカルにはめ込んでいくのではなく、整体師が骨格や筋肉のゆがみやズレを元に戻していくような方向での論理展開である。だから、農政の情けない現実には苦い思いにさせられるものの、読後感は気持ちいい。大学生は『論文の書き方』なんて本を読むくらいなら、この本をじっくり読んだほうが、はるかに論理的思考が身につくはずだ。


数日前に、この本の出版記念パーティーがあった。出かける直前に自転車で激しくこけてぺたぺた絆創膏を貼って、膝が曲がらない状態で会場に出かけた。会場には政治家から農業経営者から外務省から大手広告代理店からNHKから新聞社の編集委員から通信社から大使館から出版社から農協から大学教授から銀行から大手企業の社長から法律事務所から自治体から150人をこえる人たちが集まった。10年足らずでつくりあげたその人脈の広さにも驚いたが、その中で、きみがパレスチナでハマスに縄跳びを教えたり、サダム・フセインの息子の親書を手にイラクで映画作りをするために駆け回っていたことを知る、ただ一人の身としては、言葉にいいつくせない感慨があった。

Party_2


農業に関心があってもなくても、これはほんとにすごい本なので、ぜひ読んでください。
某編集長も感想を書いています。


 
話変わりますがツイッターというのに登録しています。ブログと同じで、なかなか更新できないのですが、最近は月刊から週刊くらいに頻度が上がっています。


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「本」カテゴリの記事

コメント

ご紹介ありがとうございます。
これから出かけるので、さっそく買ってきます!
『1Q84』は後回しで読みます。ワハハー。
読んだら感想を書きますね。

twitter、私も数日前に始めたのでさっそく真知さんのフォロワーになりました。
かめその後も期待。

投稿: 三谷眞紀 | 2010年4月18日 (日) 11時24分

>三谷眞紀さま

こんにちは。
ツイッター、カメ日記と化していますが、カメのことでよければ書くようにします。
リツーイトとか、よくわからないです。

投稿: 田中真知 | 2010年4月19日 (月) 01時43分

お久しぶりです更新を待ってました。(^o^)

日本の農業は疑問はあるもののわからない事情が多いのですが、この本で勉強させてもらいます。
といっても今グルジアなので帰国してからですが。

これから南下して、個人旅行者の間では最低最悪国民と評されるエジプトまで行きます。実際どうなんだろう?

もしたくさん暇があったら気が向いたらでいいですが、僕のHPも覗いてうやってください。

投稿: ゴン | 2010年4月20日 (火) 20時09分

>ゴンさま

HP拝見いたしました。イラン、アルメニア、グルジアですか。いいなあ。
ちょうど、仕事でヤズドやマシュハドのことなど調べていたところなので興味深く拝見しました。

エジプト人は商売や観光関係のひとはなかなかたいへんかもしれませんが、もちろんそれがすべてではないので、あまり先入観をもたずに旅を楽しんでください。

投稿: 田中真知 | 2010年4月21日 (水) 13時18分

農業を貨幣価値にかえるとろくなことになりません。
なんどもいいますが先物にやられるだけです。プランテーションになるだけです。
だからカロリーベースは正しいです。

投稿: | 2010年4月24日 (土) 07時33分

>さま
なるほど、そういう意見もあるのですね。

投稿: 田中真知 | 2010年4月27日 (火) 12時24分

遅くなりましたが、やっと感想をブログに書きました。
真知さんと、編集長さまのブログ記事も、リンクさせていただきました。

http://apakaba.exblog.jp/14269053/

超・微力ながら、twitterとアマゾンにも載せてこようっと。
しかしtwitterの伝播力はスゴイです。
こわいくらいです!

投稿: 三谷眞紀 | 2010年4月28日 (水) 22時43分

>三谷眞紀さま

いつもながらの力のこもったレビュー、ありがとうございます。ぼくが感謝するのも変ですけど。

投稿: 田中真知 | 2010年4月29日 (木) 23時51分

面白そうな本ですね。
もちろん読むつもりですが、仔細あってまだ読んでいません。どういう仔細かは、私のブログをご覧ください。
http://biwatoumi.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-67ab.html

投稿: かおり | 2010年5月 2日 (日) 12時25分

>かおりさま

ブログ、拝見しました。
農業=エコ+自然+ロハス+弱者+善人+木綿100パーセント(?)というようなライフスタイルと無条件に結びつけられてしまう傾向はいまだにつよいですね。
浅川君によると、農水省のいう国際的食糧危機というのも怪しくて、人口増加率189%に対して、穀物増産率は216%と上回っているそうで、FAOも食糧の安全保障は保たれていると結論づけているそうです。

投稿: 田中真知 | 2010年5月 4日 (火) 15時28分

はじめまして。根津と申します。

かなり遅いコメントですが、この本を読み終えて、他の方の書評を探していてたどり着きましたので、お許し下さい。

この本は、以前から重く思っていた「食糧危機」と言う命題に対して、いくつかの本を読み、さらに探したところで出会ったものでした。

「食糧危機をあおってはいけない」という本から今まで自分の中で常識化していた「食糧危機は来る」と言う問題意識をかなり修正させられたところでしたので、この本の主張はある程度納得できるものでした。

が、いくつか、納得できなかったこともあります。FAOSTATからのデータとして、出された食糧輸入額の各国比。OECDが出典のデータなど。FAOSTATからのデータは日本の輸入量がヨーロッパ各国と比べてさほど多いものでない、という事は納得できましたが、特別低いわけではないように見えました。また、OECDのデータはどうしても確認できませんでした。農業GDPについては他の資料から計算してある程度納得できましたが。

それと、論理の組み立てが見事である、とこちらでは書かれていましたが、私なりに読んだ感覚としては「飛躍、すり替えが多い」と感じました。

それと、この本の最終的な趣旨としては「補助金を基盤とした国家統制的な農政を終わらせ、より健全な自由な農業を国家として興すべきである」と言うことではないでしょうか?としたら、私はほぼ賛成です。

米価の問題、田を他の作物向けの農地へ転用することの難しさなどはありますが、現在の農政はかなりゆがんでいます。また、わずかに触れられただけで少し残念でしたが、嚢中を中心とした金融統制的な農家への締め付けも解除するべきだと思っています。

長々と書き込み、失礼いたしました。ご不快であられましたら、削除下さい。

根津

投稿: 根津幸夫 | 2010年6月14日 (月) 14時09分

>根津幸夫さま

ていねいなご感想、ありがとうございます。
数字の扱い方については、それがかならずしも現実そのものを反映しているというよりも、現実のちがうとらえ方を提唱していると思えた点もあります。
それはすりかえなのか、それとも、統計や数値というものの解釈は相対的なものだといういうことなのかは意見が分かれると思います。

実際に、農業をされている方が本書を読んで自給率について書かれています。
経済や経営という観点から自給率を考えるか、小規模な形であれ自立した形の農業という点から自給率を考えるかで見えてくるものはずいぶんちがうのだなあと思います。よろしければ読んでみてください。

http://biwatoumi.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-d2fd.html

また根津さんのご感想、著者の浅川芳裕氏に転送しておきます。


投稿: 田中真知 | 2010年6月14日 (月) 18時09分

田中様

丁寧なご返信、ありがとうございました。ご紹介された、ブログをとりあえず「自給率を云々すると」というシリーズのところ、および、冒頭の一文を読んだだけですが、とても興味深いブログでした。途中、「このブログを止めてしまう前に」という一文があり、え、止めてしまうの!!と驚きましたが、まだ続けていただきたいと真剣に思います。

書かれている方は、実際に農業をされている方、というよりはもう少し狭義で「自分で食べるものは自分で作ろう」という方と感じましたが、どうでしょうか?浅川芳裕氏が描かれている「プロの農家」とは一線を画す方だと思いましたが。

私自身の重いとしてはこのブログの筆者の方の行き方により共感を感じてしまいます。ビジネスとしての農業よりも行き方としての農業というと語弊がありますでしょうか。

が、同時に世界の中での、日本の中での農業のあり方、という事にも興味を持ってしまう自分に矛盾を感じてしまいます。

私自身、農業法人を立ち上げられたら、と思うのですが。

雑文、失礼いたしました。

根津

投稿: 根津幸夫 | 2010年6月15日 (火) 15時17分

>根津様、田中様
拙いブログですが、覗いてくださってありがとうございます。確かに私は、「農」はしてるけど「業」にはしていません。自給率の話は、まだ本当のシメの部分まで書いておらず、近々書き終えるつもりです。やっと田植えが終わって少し落ち着いたので。

投稿: かおり | 2010年6月24日 (木) 19時29分

先日、アサカワ君のPRIME NEWSを拝見しました。10年前から真知さんの記事で存じ上げているので、勝手に知り合いのように感じてしまいます。あれから何度か、真知さんからのニュースを読む度、あの、アサカワ君がと、何時も驚かされます。夏に一時帰国しますので、本を是非買ってみます。ところで、前からお伺いしたかったのですが、Water FlowのCDは何処で購入できますか?

投稿: 袴田祐子 | 2010年7月16日 (金) 07時34分

>袴田祐子さま

「勝手に知り合いのように感じてしまいます」
それはなによりです。これからも見守って?あげてくださいね。
Water FlowのCD、市販はされていませんが手元にまだあるので、送り先などメールをくだされば対応します。
bozenkun@hotmail.com

投稿: 田中真知 | 2010年7月16日 (金) 11時40分

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