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空白は悩ましい(上)

 
またしばらく空いてしまった。間が空いた後になにか書くときは、長く欠席していた子が、久しぶりに教室の扉をくぐるときみたいに緊張します。ツイッターもそうかもしれませんが、こういう発言型のネット上のメディアというのは無意識の自己肯定力みたいなものがある程度ないとむずかしい、とつくづく思います。


さて、すこし前のことだが、複数の中学・高校から『美しいをさがす旅にでよう』を今年の国語の入試問題に使ったという知らせがあった。私立中学が3校と公立高校が1校。書いた本人としては光栄だが、同じ本から4種類もの国語の問題がつくられてしまうとは、そんなに教科書的文章なのかいと、ちょっと複雑な気分でもある。昨年、アマゾンのレビューに三谷眞紀さんが「国語の教科書とか、中学入試問題や塾のテキストに使われそうな文章だ」と書いてくださったが、そのとおりになってしまった。


1月下旬頃、まず、最初の一校から「入試問題での著作物使用のご報告と二次利用についてのお願い」という書類が送られてきた。内容は、本の一部を試験に使わせてもらったことと、二次利用を許可願いたいというもの。試験問題も同封されていた。二次利用の許諾を求めるにあたって著作物使用料を払うとのことで、そのための書類も同封されていた。


だが、なぜかその使用料の欄が空白である。書類には、ご希望の金額があれば書いてくださいとある。こんなのは初めてだ。以前、塾や予備校の試験問題に自分の文章が使われたことはあるが、そのときは使用料は向こうですでに決めていて、こちらははんこを捺すだけだった。ある塾は2万ほどだったと思うが、それが多いものなのか少ないものなのか、わからなかった。


それが、今回は空白だ。シャイなジャパニーズとしては、こういうのがいちばん困る。相場がわからない。使用料というより二次利用も含まれているようなので、どうしたものなのか。以前、ナショナル・ジオグラフィック誌の仕事をしたカメラマンが、ギャラとして金額欄が空白になった小切手を渡されたという話を聞いたことがあるが、それはギャラに糸目は付けないという意味のはずだ。ずいぶんスケールはちがうが、これもそう考えていいのか。


名の知れた学校だし、予算にゆとりがあるから太っ腹なのかもしれない。しかし、調子に乗ってとんちんかんな額を書いたら、なんて非常識な奴と思われるかもしれない。やはり、ここは見栄を張って、慎ましく書いた方が好印象を持たれるのではないか。いや、そういう気弱なことだから、なめられるのだ。もっと自分の仕事にプライドをもたなくては。ここはひとつガツンといくべきではないか。


でも、はたしてどのくらいが「慎ましく」で、どのくらいが「ガツン」なのだろう。こっちが「ガツン」だと思っても、むこうにとっては「コツン」程度かもしれない。イメージとしては、お相撲さんががっぷり四つに組むくらいのガツンであってほしいものだが、それがどのくらいの額なのか想像つかない。そんなことを思い悩むうちに、心の中に欲望の黒い雲がじわじわ広がっていく。なんちゅう自分はこんまい男なんじゃろうかと、だんだん気が滅入ってくる。


そこで某編集長に電話して相談した。某編集長も自分の文が引用されたことがあるというが、入試問題は経験がないので、わからないという。


「空白なんだから、好きなように書けばいいんじゃない。もしだめだったら、向こうがなんかいってくるよ」

 
「それなら、さ、3万とか書いても大丈夫かな。非常識とか思われないかな・・・」
 

「ぜんぜん非常識じゃないよ。もっと多くてもいんじゃない」

 
「ええっ!?・・・じゃあ、5万とか・・・」
 

「10万でもいいと思うよ」

 
「じゅ、10万・・・! 」
 

自分にとってのガツンはだいたい3万くらいかなと思っていた。それが10万とは・・・もはやそれはガツンではなくアトミックボムに近い。
 

「10万は、さすがに法外じゃないかな?」
 

「そんなことないよ」
 

「ううっ・・・そうかなあ・・・・」


受話器を置いた後、しばし気持ちを落ち着ける。初めは、10万はあまりにも無謀だと思えたが、しだいにあれこれあらぬ想像が湧いてくる。今年は子どもの進学とかでなにかと物入りだったこともあり、「10万かあ、そうか、10万かあ」とつぶやきつつ、つい価格コムなどクリックしてしまう。それでも空白欄を目の前にすると、なかなかそこに金額を書き込む勇気がわかず、「ああ、こんまい、こんまい」とまた落ち込む。やっと書類をポストに投函したのは、それから3日後だった。


 
(長くなりそうなので、つづきは明日書きます)

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

私も「まあ上限10万円だよな」と思いながら読み進んでいました。そしたら編集長も同じく、ですか。
大丈夫!多過ぎたときはあちらから、「あの〜、5万円ではいかがでしょうか?」と申し出てきます。
(引用される文章の量にもよりますが・・・・)

「貴校からの書面が空欄だったので、過去の事例(これはハッタリwww)に照らしてあります。価格応談」と、注釈しとけば、もっといい鴨。

一番むかつくのは、予備校! 安過ぎます!しかもお事後承諾で、2千円とか、高飛車に言ってくる!

「じぶんの値段」を決めるっていうのは、ホント、むずかしいですね。まさに「無意識の自己肯定力」を意識化しなければならない。その結果を周囲が肯定するかどうかは別問題というところに、大いなる迷いが生じるんですよね。空白なしにつづきが読めますように!

あはは~happy01
妙にオロオロする真知さんが目に浮かんで
笑いました。

「価格.com - 入試問題著作物使用料」
1位:10万円・・・A高校
2位:5万円・・・B中学


最下位:3千円・・・C予備校」とか?!catface

あ、価格comは、安い順番でしたね。やっぱりだめだ。

それにしても、中学受験ってことは小学生が読むってことですね。
すごいなあ~~~。
続きが楽しみです。

あっ、なんかどうもすみません(反射的に謝ってしまう)
夫が私立中学入試問題を作成する側の人で、ほんとに一年中、「入試問題に使えるテキストはないか」と探し回っています。
「真知さんの新刊、ぴったりだよ!」とすすめたのですが、そんなにいろんなところで出されてしまっては、もう無理だわ。

教科書的文章というと、なんとなく、文章としてのミリョクが少ないのかもというマイナスイメージがある人もいるかもしれませんが、私はプラスイメージでとらえています。

でも、金銭の問題はまた別!
つづきお待ちします。

おめでとうございます。
ぼくの『日本は世界で第何位?』は昨年、問題集に掲載されて、妙にうれしく近所の人たちに見せびらかしました。
何がうれしいって、やっぱり国語で扱われたのがうれしかったです。
自分の文章が、日本語として認められたような気分でした。
値段は、安かったような。

>チャーリーさま

引用はまるまる1章分なのでけっこう多いです。さて、てんまつ(というほどのものでもないけど)をお楽しみに。


>bananaさま

「じぶんの値段」を決めるっていうのは、ホント、むずかしいですね」
そうなんですよ。自己肯定力の低い者としてはほんと苦行です。


>ゆうこさま

価格コムには載っていたら面白いですね。そうなると、高いところはコンペで問題を公募するのでしょうか。


>三谷眞紀さま

謝ることなんかないですよ。眞紀さんの慧眼にほとほと感心しました。


>たぶん岡崎大五さま

日本語として認められたという感覚よりも、学校もよく探すよなと感心しました。

なかなか明日がやってこないねえ

Bali では「明日(ベソック)」というのは「明日以降」という意味に変化しますが、真知さんの語法もたぶんそういう感じなんでしょう。

時計が遅れていて、うっかり明日になったことに気づきませんでした。

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