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2010年8月

クールなカブトムシ

間がまた開いてしまった。job huntingさんにはご心配までしていただき恐縮です。もっと気楽に書けばいいのでしょうが、気楽にやるためにはどうしたらいいかと悩んでいると疲れてしまって、ちっとも気楽でなくなってしまいます。ツイッターも書けない。メールとか手紙だとわりとすんなり、ためらいなく書けるのですが、それは相手がはっきりしているからだろうか。


8月も下旬というのに残暑を超えた激しい暑熱がつづいている。ここまで暑くはなかったと思うのだが、6、7年くらい前の夏、当時また小学生だったむすこをつれて、伊豆に行ったことがある。下田の岡崎大五さん邸に世話になった後、伊豆半島南端の石廊崎まで足をのばした。

 

石廊崎を見たあと、そばにあったジャングルパークという施設を訪れた。熱帯のジャングルを模した巨大な温室の中で、熱帯の動物や鳥、昆虫や魚などを見ることができるテーマパークだ。ぼくは小学生のときに家族でここに来たことがある。つまり、そのくらい昔からあったのだが、約40年ぶりに訪れたジャングルパークは、そのときからたいして変わっていないのではないかと思わせる昭和の香を残した施設だった。しかも、この夏いっぱいで閉園するというのだった。

Junglepark2


すっかり老朽化した古い体育館のような建物の中にはいると、秋竜山のマンガの描かれた古びたパネルが生い茂る熱帯植物の中に隠れるようにおかれていて、演出なのか廃墟なのかとまどうほどだった。ただ、閉園をまぢかにひかえているせいか、パーク内には捨て鉢めいた高揚感があった。まもなく行き場を失うことになる多くの外国産カブトムシをくじびきでもらえるというイベントもやっていた。当たりくじが多いのか、むすこにもアトラスオオカブトだったか、外国産のカブトムシのオスが当たった。


 

そのなんとかカブトのオスを抱えて家に帰ると、まだ、当時は生き物の世話に興味のあったむすこは「メスも飼いたい。つがいにして卵を産ませたい」といいだした。ひょっとしたら、ジャングルパークに電話したら、閉園間近だし残っていればゆずってもらえるのではないかというと、むすこが「ボク、電話する」という。あとでむすこに聞いたところ、ジャングルパークの人はたいそう親切で、すぐに送ってあげる、お金はいらないといったという。


その翌々日くらいに、ジャングルパークから宅急便が届いた。ところが、どういうわけかクール宅急便である。品名の欄には「なまもの」にマルがしてある。確かになまものにはちがいないが。。。

 
いぶかしみながら包みを開くと、案の定、クールに冷凍されたメスのなんとかカブトがあらわれた。そのてかりを帯びた黒い背中にさわると、ひんやりとした触感が伝わってくる。


「冷たいね」


「うん・・・」


「生きているの?」


「さあ、どうだろう」


しばらく見ていたが、動く気配はない。脚を縮めていて、生きているようには見えない。


「卵を産ませたいからメスのカブトムシがほしい、とジャングルパークの人にはいったんだよね?」


「うん」


ならば、標本用とかんちがいしたわけでもないはずだ。なまものだから、と運送屋の方でクール便にしてしまったのだろうか。とりあえず、室温で放置しておくことにした。ひょっとしたら解凍されたら生きかえるかもしれない。そのあと、一応ジャングルパークに電話してみた。閉園の前日だ。


「あのー、先日、子どもがそちらに電話して、カブトムシのメスを送っていただいたのですが、ご親切にありがとうございました」


「あ、はいはい、届きましたか?」


「それが届くには、届いたのですが・・・」


事情を説明すると、


「えっ、クール宅急便!?」


ジャングルパークの人が言葉を失った。たしかに、なまものとは書いたけれど、まさかクール便になっていたとは知らなかった。たいへん申し訳ないと、ひどく恐縮している様子が受話器から伝わってきた。


「お子さん、がっかりしているんじゃないですか?」


「いや、そうでもないです」


「すぐに、もう一匹送ります。本当に申し訳ありませんでした」


ただでカブトムシを送ってもらっていながら、こんなに謝られて、かえって恐縮してしまう。


その晩のことだったか、むすこが「カブトムシが動いた」といって、例のクールなカブトムシを持ってきた。なんと、解凍されたら本当に生きかえってしまった。なんという生命力。ジャングルパークの人がもう一匹送ってくれるといってくれたのに、どうしたものか。


翌々日、ジャングルパークからふたたび宅急便が届く。伝票を見ると、こんどは「なまもの」ではなく、「ワレモノ」にマルがついている。そうか、昆虫はワレモノ扱いなんだな。中から、昆虫ゼリーに頭を突っ込んだホットなカブトムシが現れた。動きはにぶいが元気そうだ。


よみがえったクールなカブトムシと、新しいカブトムシを、くじで当たったカブトムシといっしょに飼育ケースに入れる。どれも動きは鈍く、すぐに土に頭を突っ込んでしまって変化のないことこの上ないが、それでも眺めていると、なんとなくほのぼのした気持ちになってくる。


礼をいおうとジャングルパークに電話した。電話は通じたが、カブトムシを送ってくれた担当者の人はすでに異動していた。閉園の期日も過ぎていた。いまは残務処理の最中だという。


「動物たちの引っ越し先は、もう決まっているのですか?」


「ええ、だいたいは。私たち人間の方がたいへんですよ・・・はは」


「・・・はは」


クールなカブトムシは冷凍時のストレスが尾を引いているせいかあまり元気がなく、しばらくして本当に動かなくなってしまった。新しいメスのカブトムシもつがいをつくる前に死んでしまった。くじで当たったオスは、その後ももそもそと生きのびていたが、冬になる前くらいに二匹の後を追った。そのたびに、むすこが建物の裏手の芝生の一角にカブトムシのお墓をつくって木の板をさしてあったが、近所のおばさんに掃除されてしまったのか、いつのまにかなくなってしまった。


町なかでクール宅急便のトラックを見かけると、いまでもあのジャングルパークのカブトムシのことを思い出す。そして閉園してしまったジャングルパークのオウムやサルやピラルクたちは、どこかで元気にやっているのだろうかと思う。


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