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2011年1月

エジプトのデモはどうなる?

1月も終わりです。たいへん遅ればせながら、明けましておめでとうございます。ブログのタイトルを「更新はとどこおりがちでも、つづけます」にしたほうがよいという提案もありますが、そこまでの決心はつきません。


新年早々、チュニジアの政変がきっかけで周辺諸国があわただしい。エジプトでも25日の大規模なデモの様子がUstreamなどの動画サイトでほぼリアルタイムで流れているし、ツイッターを見てみると、現地からの生々しい証言がぞくぞくとラインに殺到してくるのを見ていると、たんなる感想ではあるが、すごいことになったなあと思う。


エジプトは観光立国だし、旅行者として訪れる分には、陽気で人なつっこいエジプト人の暮らす、凶悪犯罪の少ない、比較的安全な国である。けれども、一方で1981年以来、非常事態宣言が出たままという異常な政治状況が常態化していて、政治集会やデモは禁止、マスコミ報道は政府の統制下にある事実上の一党独裁国家である。それは以前から明らかだったが、そのことが広く認知されるようになったのは、エジプト警察での拷問の映像がリークされたり、ツイッターなどを通じて反政府関係者の声が外に出るようになったからではないか。


禁止されているにもかかわらず、これまでにもデモは起こっている。2000年代にはイラク戦争への反対デモやパレスチナへの支援を訴えるデモ、そしてこの数年は30年近く大統領をつづけるムバラク政権に対して「もうたくさん」を意味する「キファーヤ」運動にともなうデモなどが起こっている。それでも大量の逮捕者が出て、投獄されたり、拷問されたりして、結果的には状況はあまり変わらないというののくりかえしだった。


ところが今回は事情がちがう。周辺諸国での同様の動きが追い風になって、巨大な規模にふくれあがったデモ隊が、博物館のあるタハリール広場を占拠している映像は壮観だった。動画では、巨大な大統領の看板をこわす人もいて、その勢いのすごさに圧倒された。カイロに30年暮らして、さまざまな運動の挫折を見てきたはずの友人でさえ、「このままでは体制がやばくなるのでは」とメールをくれたほどだ。


26日には、アメリカ系のアラビア語メディアが、ムバラク大統領の息子のガマル・ムバラクの一家がプライベートジェットでイギリスに逃げたという情報を伝えていた。噂では、ガマルが父のあとを継いで大統領を世襲するといわれていて、それもまた反政府勢力の怒りを買っていた。その彼が、スーツケース96個を抱えて逃げたというのだ。これが本当なら、政権はひっくりかえるかもしれないと思ったのだが、どうやらデマだったようだ。


先行きはわからないが、ここまで運動が盛り上がってしまったら落としどころがむずかしいだろう。アメリカはイスラエルとアラブ諸国の間をとりもってくれているムバラク政権とのパイプをかんたんには切りたくないだろうし、かといって民主主義の側につくというアメリカの建前からすれば、市民の行動を否定するわけにもいかない。ヒラリー・クリントンもオバマもそのあたりは口を濁しているし、周辺のアラブ・イスラム諸国、とくにイランは、オバマとムバラクは同じ穴のムジナだと糾弾しているし。


仮にムバラク政権が倒れたとしたら、おそらく原理主義系のムスリム同胞団あたりが出てくるだろうし、そうなるとアメリカは警戒して、なんとか親米路線をとるように積極的に肩入れするだろうし、そうするとアルカイダあたりが黙ってはいないだろう。アルカイダやイスラム武装勢力としては、ムバラク政権は打倒すべきものなので、今回もし政権が倒れたら、それは彼らにとって望ましいことではある。


でも、一般のエジプト人はイスラム武装勢力による統治を求めているわけではないので、なんにしても事がまた面倒になりそうだ。かといって、いままでのように今回の運動をねじふせるだけの力はムバラク政権にはもうないだろう。たとえ、できたとしても、82歳のムバラクの政権が安泰でいられるわけもない。いずれにしても、ややこしい。



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カイロの比較的新しいショッピングモールはおしゃれすぎて落ち着かない

 
昨年、ムスリム同胞団が次期大統領候補に推したのが、2005年にノーベル平和賞をとった国際原子力機関の事務局長だったエルバラダイという人物だった。現政権は、そのスキャンダルを取り上げて、結局これをつぶしたが、今回のデモでエルバラダイがまた出てくるだろうから、いずれにしても、前と同じにはならないだろうな。でも、エルバラダイはけっしてムスリム同胞団と歩調を同じくしているというわけでもない。


事情は周辺のアラブ・イスラム諸国でも似ている。盛り上がったはいいけれど、落としどころが見えない。イエメンでも数千人規模のデモというが、エジプトのようにまだ有望な産業があり、仕組みを変えることで社会が変わる可能性があり、教育も人材もあるところとちがって、もっと先が見えない。もっとも先が見えてやっているわけではなく、いまの状況にうんざりしているだけかもしれないが。くすぶりはあったとはいえ、チュニジアでの政変の勢いが飛び火して一気に燃え上がっているので、その意味では、一種の祭りなのかな。


エジプト全体が今回のことで、どのくらい盛り上がっているのかも、どうもよくわからない。ツイッターや動画サイトには生々しいライブ感はあるけれど、かつてそうだったように、その画面の外側には今回のデモを白々とした思いで見つめている多くのエジプト人もいるはずだし、デモ参加者よりもずっと多い、いつもとまったく変わりのない日常を送っている人たちもいるはずだ。


今回の動きはツイッターやフェイスブック、動画サイトの普及が一因であるのはたしかだろうし、実際にツイッターが一時的に当局によって遮断されたのも、その影響力を怖れてのことだろう。でも、ネットによる情報の取得や発信にかかわっているエジプト人の率は、けっして高くはない。携帯電話はたしかに普及しているが、エジプトの識字率はいまだに50パーセントくらいか、それ以下である。それらの人たちが、どんなふうに今回のことを見ているのかもわからない。うーむ。


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まちがいさがし? カイロの酒屋にて 


 


話は変わります。遅ればせといえばこれも遅ればせ情報です。たぶんいま出ている『考える人』(新潮社)という雑誌が「紀行文学を読もう」という特集なのですが、その中で「巡礼−−聖地の歩き方」というブックガイドを書いています。巡礼ものの本の紹介です。そこにも書いたのですが、いちばんのお薦めは『マルコムX自伝』です。


考える人 2011年 02月号 [雑誌]

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