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「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること」

2012年5月15日、沖縄が本土に復帰して40年になった。沖縄の基地問題については新聞やテレビで目にすることくらいしか知らなかったし、正確にいえば、積極的に知ろうともしなかったという後ろめたさもあるのだが、昨年出たこの本(『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知ってること―沖縄・米軍基地観光ガイド』矢部宏治・文/須田慎太郎・写真)を読んで少なからぬショックを受けた。紹介しようと思っていたが、例によってだらだらしているうちに、一年近くたってしまった。。。

本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド


ここに書かれていることが、タイトルどおり、本当に「本土の人間」がみな「知らない」ことなのかはわからないが、たしかに自分にとっては知らないことばかりだった。著者の矢部宏治さんも沖縄の人ではないし、かぎりなく平均的な「本土」人として、素朴な疑問だけをたくさん抱いて沖縄を訪ね、取材を通して見たり聞いたり考えたりしたことを、あらためて資料を吟味してまとめたもので、そのいい意味での低い目線がこの本の魅力である。沖縄の基地問題の政治的な是非を問うのではなく、ペリー来航以来の日本とアメリカの関係を問い直し、そこで生じてきた歪みに気づかせてくれるようなつくりになっている。


直接基地問題とは関係なさそうに見えるが、たとえば、あのペリーがどういうルートで日本にやってきたかって知ってました? 自分もそうだが、なんとなく黒船で太平洋を横断してきたのだろうと思っていないだろうか? 実際、司馬遼太郎でさえ、そう思いこんでいたふしがある、という。


だが、そうではないのだという。じつはペリーは大西洋をとおって喜望峰、そしてインド洋のマラッカ海峡をとおって西回りで日本にやってきた。しかも最初に上陸したのが那覇だったという。それだけだとただの歴史トリビアだが、その目的は「沖縄に海軍基地を獲得すれば、中国へ向かう太平洋航路を確立して、イギリスの世界覇権に対抗できると考えた」ためらしい。そしてこのときペリーがつくった地図や海図が「92年後の沖縄上陸戦で使われた」のだという。


また、米軍はイラクからは7年で撤退したのに、沖縄には67年たってもいつづけられるのはなぜなのか? 


さまざまな理由が挙げられるだろうが、その駐留を正当化しているおおもとの根拠は、どうやら天皇にあるという。引用されている進藤栄一氏の論文によると、「1947年、昭和天皇がマッカーサー司令部に対し、沖縄の半永久的な占領を求めるメッセージを側近を通じて伝えていた」。つまり「天皇は、沖縄に対する米国の軍事占領は、日本に主権を残したままでの長期租借−−20年ないし50年、あるいはそれ以上−−の擬制(フィクション)にもとづくべきであると考えている」という。


これは「天皇メッセージ」と呼ばれ、5月15日付の朝日新聞でもふれられていたが、無知な自分はまったく知らなかった。要するに、戦争放棄の理念にもとづき、天皇を米軍が守り、それゆえに日本の右翼が親米になるという「戦後日本の複雑なねじれ現象」がここから生まれたのである。「戦力放棄、平和憲法という理想を掲げながら、世界一の攻撃力を持つ米軍を駐留させつづけた戦後日本の矛盾は、すべて沖縄が軍事植民地となることで成立していた」(132p)というのだ。


もうひとつだけ取り上げると、普天間基地というのはアメリカの航空法からも、日本の国内法からも除外された対象になっているというのは、知ってました?


アメリカの航空法では、滑走路の両端から900メートル以内の区域はクリアゾーンといって、いっさい建物があってはならないことになっているのだが、普天間では、その本来クリアゾーンの中に、学校も公民館も保育園も住宅もある。こんなことがあっていいのか、と日本の法を見てみると、なんと日本の国内航空法からも、普天間は適用除外になっているのだという。これでは占領状態のときとなにも変わりない。


そんなわけで本土の人間だからというせいにするわけではないが、無知な自分にとっては「へー」「ほー」という話の連続だった。より正確にいうなら、報道などでなんとなく知っていた断片的な知識が、この本を読むとそれぞれつながってくるという感じなのだ。中途半端にまとめると誤解も生じかねないので、興味のある方はぜひ読んでみてください。版元のホームページから半分だけ無料でダウンロードもできるという太っ腹ぶりである。副タイトルに「沖縄・米軍基地観光ガイド」とあるように地図や交通案内など実用的な情報もたくさん入っている。そう、なんといっても、これはガイドブックなのだから。


写真もいい。すべてオールカラーだ。といっても基地の許可を得て撮られたお仕着せの写真でもなければ、潜入ルポ!とかいうような非合法な方法で撮ったものでもなく、フェンスの外側の、だれにも見とがめられない地点、いいかえれば観光客でも身を危険にさらさずに撮れるような位置からすべての写真が撮られている。そのせいか、どの写真にもどこか白々とした空しいような静けさがただよっていて、それがかえって沖縄の人たちが感じている基地への距離感や違和感や諦念に重なるような気もする。


文章は論文なみの濃さだが、基本はガイドブックだ。読みやすくするための努力や工夫があれこれ施されていて手作り感もたっぷりある。ちなみに著者の矢部宏治さんはぼくの高校・大学時代の同級生で、本人は忘れているかもしれないが、そのころちょっとだけ太極拳を教えたこともある。かつて大きな書店のカウンターにはかならずといっていいほど置かれていた「東京BOOK MAP」という画期的書店ガイドをつくった方でもある。

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