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舞踏家・長岡ゆりさんのソロ公演

古い友人で舞踏家の長岡ゆりさんのソロ公演「臥待月」を見た。とてもよかった。とはいえ、自分は舞踏のことはまるで知らないし、正直なところ、こういう、いわゆる前衛的な舞踏を見て、なんといえばいいのかいつも悩む。光と闇が、生と死が云々・・といった、いかにも評論めいた言い方も嘘くさいし、「考えるのではなく感じればよい」的なお決まりの言い回しもいやらしい。


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ゆりさんのパフォーマンスを見ながら、子どものとき、これを見たらとても怖かっただろうな、と思った。というか、いまでも怖い。でも、どうして怖いのだろうと考えていて思いあたったのは、それが母を思い出させるからかもしれない、ということだった。


多くの人にとってそうであるように、母親は最初に接する女性である。もちろん、世の中にはいろんな母親がいるだろうが、母と接しながら、母という枠組みから逸脱した女性としての怖さみたいなものを、たぶん物心ついた頃から彼女が亡くなるまで折にふれて感じつづけてきた。


田舎のおばあちゃんも怖かった。きびしいとか、そういう怖さではなく、存在そのものが浮世離れしているというか、そこに異形性を感じていたからだと思う。やにわに口の中に手を入れて入れ歯を取り出したり、瞑目して爬虫類のように長時間じっと動かずに座っていたりするのを見るにつけ、こうしてふつうにしているけれど、なにか底知れないものをこのひとは隠し持っているのではないかと思っていた。


女性は思いもよらない変化をとげる。口の中からいきなり入れ歯を取り出すように、さっきまでそこになかったものを、突然自らの中から取り出し、そこにぶちまける。つぎになにが出てくるのか予想もつかない。ふだんはそうした異形性は抑えられているものの、なにかのきっかけでそれが膨れあがり、噴出しはじめると、べつの生き物のように変容をとげ、もう元には戻らない。そんなことを、おそらく最初に母をとおして感じて以来、いまだに自分はその前で息を凝らし怖じ気づいているような気がする。ゆりさんの舞踏を見ながら、そんなことを感じていた。


同じ舞踏でも、男性の舞踏を見て、そんなことを感じたことはない。学生の頃、なんどか田中泯さんの舞踏を見る機会があった。ほとんど全裸で、目を瞑って痙攣しながら、目の前の床に転がっている田中泯さんを見て、ぼくはどうしたらいいものかと困った。田中泯さんには申し訳ないが、それはうちで酔いつぶれて、床に転がって、半裸で手足をばたつかせている父親をとっさに思い出させた。不気味ではあっても、そこに感じたのは異形性というより、生きていく業のようなものだった。


舞踏の神様といわれる大野一雄さんの舞踏もいちどだけ見たことがある。みんなとても感動しているのだけれど、ぼくには、やはりそれがやはり酔っ払った父親に見えたりして、どうもやれやれという気分だった。傲慢な言い方ではあるが、自分が男性でもあるので、どこかわかる気がしたり、予想がついたりする部分もあったからではないかと思う。実際にはそんなことはないのだろうが。


でも、女性の場合はそう思えない。彼女の踊りを見ていても、油断がならないというか、天井からつり下がった電灯をゆっくり揺らしているときでも、次の瞬間には、いきなり電灯をひきちぎって、床にたたきつけてしまうことだってあるかもしれないと感じてしまう。身体の中から引き出される数々の異形性、それが、母を通し、そしていまも女性に対して無意識に感じてしまう本能的な恐怖感だ。ただし、そうした異形性を女性が取り出さなくてはならなくなったおおもとの原因は男性にあったりするので、よけいに萎縮してしまう。


舞踏の感想とはほど遠いが、自分の女性に対する本能的な恐怖感の由来を垣間見るような気がした時間だった。それまですっかり憑依されていたかのように踊っていた彼女が、パフォーマンスが終わると、すぐに「ありがとうございました」とお辞儀して、なにごともなかったかのように、こちらの世界にすっと戻ってきてしまうのもちょっと怖かった。



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