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写真家の横谷さんはいまなにをしているのか?

岡山で、写真家の横谷宣さんの家を訪ねた。横谷さんのことはこのブログを読んでくれている方は覚えているかと思う。ときどき取りあげるアサカワ君とならんで、彼もまぎれもない怪人である。


3年前の2009年の冬、お茶の水のギャラリー・バウハウスで行われた横谷さんの写真展はギャラリー始まって以来の人気を博し、作品もたくさん売れ、新聞にも取りあげられた。まったく無名だった写真家の作品がこれほどまでに注目され、しかも作品がこれほど売れることは写真評論家の飯沢耕太郎さんをして「まずありえない」といわしめたほどだった。

 
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©Sen Yokotani


それはデジタル全盛のこの時代に、カメラやレンズを手作りし、現像液もみずから調合し、一枚のプリントを完成するのに半年かかるという時代に逆行したユニークなアナログぶりのせいばかりではない。なんといっても横谷さんの写真は美しい。しかもその美しさが時代や流行の移り変わりに左右されない。見た目はきれいでもすぐに飽きてしまうものも多い中、内に光を濃縮したそのオリジナルプリントは沈香のようにいつまでも玄妙な芳香を放ちつづける。そんな希有な美しさなのだ。


2010年の記事で、彼が印画紙を手作りしていることを書いた。それまで使っていた印画紙が製造中止になってしまったためである。既製品の印画紙ではイメージした仕上がりにならないので、印画紙そのものを自分でつくることにしたのである。

 

あれからさらに2年、その手作り印画紙はどうなったのか。。。

 
 
 
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・・・じつは、いまだに作りつづけているのであった。。。


 
この3年、彼は膨大な量の紙をヨーロッパやアメリカから取り寄せ、その紙質にあった現像液を調合したり、塗り方を変えたりということをくり返してきた。上の写真の部屋はもとは和室だったのだが、印画紙の製造やプリント作業を行うために、壁に穴を開けてパイプを引いたり、天井にダクトをはりめぐらしたり、乾燥機をとりつけたり、床下をあけて水道管を引っぱってきたりして、こうなった。
 

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右の黒い箱は手製乾燥ボックス。ダクトがつながっていて空気が循環するようになっている。右の棚の上には化学薬品の類。ほかにも化学の実験道具みたいなものがいっぱい並んでいる。マンション側には内緒だったが、あるとき下の階に水漏れがしたことから管理会社や水道屋がやってきて、天井いっぱいにぶら下がった排気ダクトやら電線やら大きなプラ舟の流し台やらが見つかってしまった。彼らは絶句していたそうだが、どうにかごまかしたらしい(どうやって?)。


 

 
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肝心の写真だが、試験プリントされたものを見るかぎり、ほとんど完璧といってもよい出来に見えた。しかし横谷さんにいわせるとまだあと少しなのだという。どこがあと少しなのか素人目にはわからないほどなのだが、彼の中にイメージがあり、それに近づけるやり方もわかっている以上、それをやらずにはいられない、ということのようだ。


 
じつはこの初夏には、これで完成というノーハウが確立したのだが、いよいよプリントということで紙を取り寄せたところ、紙のサイジング(薬品処理法)が変わったらしく、同じロットの紙でも現像液を塗布したときの化学反応が異なるようになってしまったそうだ。EUにおける化学物質の規制が年々厳しくなっていることから、各製紙会社が紙の製造工程を変えたせいではないかと彼はいう。画用紙として絵画に用いる分には問題ないが、印画紙にするため薬品を塗ると思いもよらぬ化学反応が出てくるというのである。もっとも、製紙会社としても、まさか画用紙を印画紙として使う顧客がいるとは思ってもいないだろう。このサイジングのちがう紙への対処のために少し予定が狂ったが、現段階では新しいサイジングの紙に適応したトーニング(化学処理)の方法もほぼ目途がついている。


 
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この部屋にあるものは家具から道具類からほとんどが手製。これもなんだかよくかわらないがアクリル板を組み合わせて作った装置。

 

彼はカメラやレンズや印画紙だけでなく、なんでも自分で作ってしまう。居間にあったこのテーブルも自分でつくったもの。足の部分が蛇腹になっていることからわかるように伸縮自在になっている。ストッパーには自転車の車輪の着脱に用いる金具を利用している。写真が暗いのでわかりにくいが、ものすごくかっこいいし、安定もいい。

 
 
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ふだんは高さ70センチのダイニングテーブルにも使えて、床に座るときには脚を縮めて、ちゃぶ台としても使えるテーブルがあるといいな、と思って3年くらいずっと考えつづけていて、やっとデザインやイメージが固まってから製作を開始したという。

 

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折りたたむのもかんたん。

 

 
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ほらこのとおり。ここまでぺったんこになるので収納も楽々。


 

 
 

ほかに、こんなものもあった。なんだと思います?


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じつは、東京に暮らしていた頃、家にお風呂がなかったという女友だちのためにつくってあげたという浴槽(!)だという。写真だと色がわかりにくいが、漆のような濃い赤と緑の組み合わせがノーブルで、江戸時代の南蛮渡来の骨董品といっても信じてしまいそうである。

 
 
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ちゃんと排水口もある。木製で、板や部材はすべてほぞを切って組み合わせてあり、釘は一本も使っていない。なんとかという大工の伝統的技法だそうだ。友だちの女性はこれを台所において水を張って使っていたという。水漏れはまったくなかったそうだ。

 

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写真作品もそうなのだが、横谷さんのつくるものは何にも似ていない。なにかオリジナルがあって、それを模倣したり改変したりするのではなく、純粋につくりたいものをイメージし、ゼロからデザインを決めていく。この浴槽もそうやって構想したという。製作作業は、当時アルバイトしていたレンタカー屋の駐車場で行った。通りすがりの人に、なにをつくっているんですかと聞かれることもあったそうだ。その女の子が風呂のある住まいに引っ越したので、返却してもらったという。いまは浴槽としてではなく部屋に置いて衣装箱になっている。


 

あともう一つ、これは台所のガスコンロの上に載せられた横谷製オーブン。

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これのどこがオーブンなのかと思うのだが、横谷さんにいわせると「私はこれ以外のオーブンはオーブンと認めません」という。材料はダイソーで買った金だらいや焼き網や、あと写真には写っていないが金だらいの中にある鉄板などの組み合わせでできている。これをガスコンロの上に載せて使用するのだが、金だらいの中の網の調整次第でパンでもピザでも何でも焼けてしまうという。このオーブンもそうだが、横谷さんのつくるものはどれもお金がほとんどかかっていない。先の折りたたみ式テーブルも木製浴槽も一見するとすごく高級そうに見えるのに、製作原価はおそろしく安い。


これはとてもだいじなところだと思う。いかに金をかけないで満足のいく生き方ができるか。それはいわゆる節約とかケチるということではない。「節約」は本当はお金があったらこんなこともできるのに、金がないからそれをがまんするという受動的な適応だ。だが、彼の場合、金がなければなにかが得られないという、世界の暗黙の前提そのものが問題にされていない。時は金なり、も問題にされていない。やむなくそうしているのではなく、自ら望んでそうしている。最近話題になっている坂口恭平さんの最初の本「TOKYO0円ハウス0円生活」の中にホームレスの達人・鈴木さんの生活の仕方が紹介されているが、横谷さんを見ているとホームレスではないけれど、それにきわめて近い生き方をしているように見える。ただ、そこに突っ込み出すと、長くなるのでこのくらいで。
 

 
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横谷製オーブンで焼いてくれた手製のピザはたいへんおいしゅうございました。パリにいた頃は洋菓子づくりに凝って、いろんなレシピを考案したという。いずれ「横谷宣 家具の世界展」とか「横谷宣 料理の世界展」などもやりたいものだが、まずは3年がかりの印画紙の完成を祈りたい。


本人は、ここには書けないが私生活上のあれこれ(女性問題ではないです)もあって、なかなかたいへんそうなのだが、「今はもうすぐそこに見えている頂上までの階段を着実に登っている」とのことなので、その言葉を信じて、注文された方々も、もう少し待っていただきたい。注文から3年間待ちつづけているという、みなさまのなみはずれた寛容さに本人も深い敬意を表しています。ただ、彼がつくりあげるものは、まちがいなく他のだれにもつくることのできないものであることは、たしかです。そのことに免じて、もうすこし待ってくださればと思う。

 

以前書いた横谷さん関係の記事へのリンクをまとめておきます↓

横谷宣写真展 「黙想録」 のお知らせ

Sさんの日記より

横谷宣×飯沢耕太郎ギャラリートークより

横谷 宣と語る会 報告

横谷宣展満了御礼+オンム・セティ「ふしぎ発見」登場!

横谷さんの手作り印画紙



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コメント

テーブルといい、浴槽といい、すばらしいですね。本人さえその気になれば、それで商売として成立するのでしょうが、横谷さんはその商売そのものを受け付けないでしょうから、ま、しょうがないですね。発注したら作ってくれるといいのになあ。でも、どういうものが、いつできるかわからないのでは注文しようもないね(笑)

同じものをもういちどつくる気はしないといってましたからね。一個だけつくって、あとはライセンス生産なら可能かもしれませんが。。。

は〜〜〜〜〜、浴槽まで作ってしまうとは!
しかもかように美しいものを。

料理の彩り具合といい、食器のセンスといい、生活全てに横谷さんの
美的な事へのこだわり(ご本人は多分こだわりなんて思っていなくて
自然な事なんでしょうが)が感じられますね。

「家具の世界展」「料理の世界展」、期待してます。

なるべく貨幣経済から離れた生活をするというのが、理想的ですね。私もできるだけそうしたいのですが、いまのところせいぜい自分の食べるものを田畑で作るので精一杯。連れ合いは家具なども手作りできる人です。
性差のせいにしてはいけないのかもしれないけど、やっぱり男女で向き不向きはあるなあ・・・横谷さんは、非常に男度が高いですね。

>おーもりさん
浴槽、美しいですよ。
「家具の世界展」「料理の世界展」はほんとに開催したいです。
でも、その前に写真を。。。

>かおりさん
男女の向き不向きはあるでしょうね。でも最近では男度の低い男性、女度の低い女性も増えている気がするので、うまく組み合わせるとバランス取れるかもしれません笑。

わが家の、私が一日のほぼすべての時間を過ごす部屋に横谷さんの作品が飾ってあって、毎日その写真を見ながら過ごしています。
飽きるとか、掛け替えたいとか思ったことが一度もありません。
ちょっと前まで小学生が大量にうちに上がってきていたのですが、子供はすごく素直で、皆「これ、なに?これってなにが写ってるの」と口に出して、じーっと見つめていました。
横谷さんの作品に出会えたこと、わが家に迎えることができたことは、大きな幸せです。
そのきっかけをくださった真知さんにも、ほんとに感謝しています。

>眞紀さん
横谷さんに感謝してください笑。
小学生がそんなふうに写真に接することができるのはいいですね。うちにも横谷さんの写真がありますが、いまだふさわしい額装ができずまだ飾れずにいます。

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