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キンシャサでコンゴ本を読む

キンシャサでのフランコフォン会議期間中、外は兵士と警察だらけで自由に外出できないので、持ってきた本や、いま寝泊まりさせてもらっているところにあったコンゴ関係の本を読んでいた。日本ではなかなか読めないのに、ここキンシャサだと地の利(?)もあって面白いように読める。フェイスブック用のちょっとしたメモ書きのつもりで書き始めたのだが、思いのほか長くなってしまったのでブログにも載せます。

 
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Tim Butcherの 'Blood River' は 日本で取り寄せ、こっちで読むためにとっておいたものだが、2004年にイギリスのジャーナリストがコンゴ川の源流から河口までスタンレーのたどった跡を旅した記録。モブツ以後の唯一のコンゴ紀行でおもしろかった。歴史の記述が長いのがかったるいのと、白人によくある大げさな描写がなんだかなあ、という感じだが、2004年という不安定な時期に丸木舟と船とバイクでよくこんな無謀な旅をしたものだとあきれ感心。その数年前にはキサンガニなんて虐殺された死体で川が赤く染まっていたというのに。
 
 
ただ、けっこうインチキもしていて飛行機は乗っていないけれど(ぼくの勘違い。ンバンダカからキンシャサは飛行機で移動している)、国連の無寄港の船でキサンガニからンバンダカまで行ってしまうなんて、コンゴ川のいちばんいいところをなにも見ていないではないか。そういうところを歴史の叙述でごまかしてしまうのはずるい。丸木舟だって自分で漕いでいないし、村の生活シーンとかがすっかり欠落している。そういうことは目的ではなかったのだろうけれど。一方でキサンガニで1964年のコンゴ動乱を体験した司祭に会って話を聞くくだりなどは息をのむ。教会にはそのときに殺された教会関係者や信徒の肖像画がいまなお飾られているという。ちなみに、この著者がキサンガニで遭ったOggieという漁師は、90年代半ばにザイール河を下った謙ちゃんや尾崎さんが丸木舟を買ったオギーと同一人物なのではないか、という気がしている。

 
 

左のThierry MichelのDVD2本は日本で観たことがある。Mobutu, Roi de Zaire(モブツ、ザイールの王)はモブツの生涯のドキュメント。たしか写真美術館で観た。モブツがドイツ人技師を雇ってジャングルを見下ろす丘の上でロケットの打ち上げを見物するシーンには驚いた。モブツはロケット開発までしていたのか。案の定というか、ロケットはモブツの目の前でみごとに墜落し、モブツは「打ち上げの角度に問題があったようだな」とかつぶやき、技師はちょっとどぎまぎしながら「そうですね」と相づちを打つのだが、そのあとこのドイツ人技師がどうなったのか気になるところだ。
 
  
Congo Riverのほうは、何年か前にたしかNHK-BSで見た。2006年のドキュメントで、とても面白かった。密林の中にモブツがつくったバドリテの宮殿も出てきていたと記憶する。中国庭園なんかをジャングルの真ん中に作り、専用の滑走路をつくって、コンコルドで各国の政府関係者を招いていたという。でも、いちばん印象に残っている場面はキンシャサだったかの教会の説教師が、おおぜいの聴衆を前に「お金をたくさん払えば天国へ行けます、さあお布施しましょう」といって歌うとこ。


 
 


レドモンド・オハンロンの「コンゴ・ジャーニー」はカズオ・イシグロが絶賛して、日本でも池澤夏樹や養老孟司といった文化人・知識人がこぞって賞賛していたのでかえって読む気になれず手を出さなかったので、ここで初めて読んだが、これがどうして日本で話題になったのかよくわからない。一冊2300円で2巻本である。本当に売れたのか? 内容は面白くないわけではない。でも日本の一般読者が楽しめるような内容とは思えない。コンゴやアフリカのことをなにも知らずに読んで、これが面白いと思えるだろうか。軽く読み流せるような娯楽性とはほどとおく、どこまでもこってりとして、それこそ密林に迷い込むかのように濃密すぎる内容である。。。
 
 
ここに出てくるマルセラン博士というコンゴの役人は高野秀行さんの「幻獣ムベンベを追え」にも出てくるそうで(未読。このあと読みます)、文中にも88年に日本の探検隊がのこした変な柄のTシャツのことにふれられている。そんな楽しみはあるのだけれど、この明らかにつくりこまれた饒舌な会話にはどうも違和感があるな。スタンレーの頃からそうだけど、白人はこういう大げさなのが好きなんだな。それにしてもみんな本当にこんなにしゃべるか? 呪術師がこんなに思わせぶりなことを滔々としゃべるのか? 事件の起きるタイミングだってよすぎるし。。。
 
 
まあ、そういうことは目をつむって楽しめばいいのだが、楽しむというより読んでいると痒くなってくる本で、後半になるとちょっとつらい。日本でこれ完読したひとどのくらいいるのか。ちなみにこれは旧ザイールではなくコンゴ共和国側の話。時期はたぶん1990年前後のことだろうと訳者が書いていた。コンゴ共和国側にもオナトラみたいなのが運航していたのだな。でも、自賛のつもりはないが、オナトラみたいな船についての記述ならぼくの「アフリカ旅物語」(中南部編)のほうが誇張なしに書かれているように思う。


  
 


草場安子「コンゴという国」はモブツ政権崩壊前後のザイール大使夫人による生活レポート。政府関係者や駐在員の書く生活記録というのは、建て前が多くて、取り澄ましていて、あまり面白くないものが多いのだが、これはちがった。「あきれてものもいえないわ」みたいな素直な感想がストレートに書かれていて、とても面白かった。とはいってもけっして自文化中心的な偏見で書かれているわけではない。ドライで、つきはなしているけれど、その視点はとてもニュートラル。観察力もあるし、じつにこまごまとよく見ている。約束を違えても、うそをつかれても、だまされても、「そんな文化もあるのよ、文化の違いを理解することが国際理解への道よ」みたいなうさんくさい寛容さはみじんもない。

 
 
マタディの町での歓迎レセプションに出席したときのうんざりした様子なども、とてもリアルでいい。「・・・中央の桟敷席に知事を中心にして席を占める。適当に逃げ出したいので、なるべく知事から遠い席にしようと画策する。大きなお面についたバナナの葉がかさかさ、ばさばさ鳴っている。・・・色彩はモノトーンで物悲しい。音楽も単調というのか、リズムだけでメロディがない。・・・腰をふるダンスだがちっとも意味がわからない。ダンスの巧拙もわからない。宴たけなわの途中で抜け出すことばかり考えている。・・・」。引用すべきところはほかにあるのだが、バグダッドで似たようなレセプションに招かれたときにまさに同じような状況を体験していたので笑ってしまった。


 

あと右上のBradtのCongoはこっちにくるまで出ていることを知らなかった。Bradtはロンプラとともに英語のガイドブックとして知られているシリーズだが、ロンプラよりも文化面の記述や、著者の個人的なエピソードの記述が充実しているので、ぼくとしてはロンプラよりも気に入っている。BradtのMadagascar や Ethiopiaは読み物としてもとても面白い。このCongo編は2008年版だが、さすがにたいへんな時期だったこともあってか取材も十分にはできなかったのだろう。歴史の叙述や政情の解説にページが多く割かれていて、現地事情についての記述はそれほど多くない。でも、いまのところコンゴで使えるガイドブックはこれくらいだろう。


 


このほかにもコンゴ関係だとはずせないのが手元にはないがピーター・フォーバスの「コンゴ河」、あとかつてザイールに駐在していた日本人が自費出版で出した「モブツ・セセセコ物語」はいずれもたいへんな名著である。「コンゴ河」はアラン・ムーアヘッドの「白ナイル」「青ナイル」のコンゴ版ともいえるが、ぼくとしてはムーアヘッドよりもフォーバスのほうがドラマチックでとても好きだ。ここでもういちど読みたかったな。
 
 

  
英語で書かれたものはたいして知らないが、10年くらい前に出た「In the Footsteps of Mr.Kurz」はモブツのどうしようもない堕落ぶりを、これでもかというほどレポートした紀行でなかなか面白かった。著者は覚えていない。コンゴ河を舞台としたコンラッドの名作「闇の奥」に出てくるクルツ大佐にモブツをなぞらえているのだが、クルツとモブツは音は似ていても、タイプとしては正反対ではないのか。あと、内容も著者も覚えていないのだが「Facing the Congo」というのも10年くらい前に書かれたザイール紀行だった。

 

あと写真右下のウォルフガング・ロッツ「シャンペン・スパイ」は居候先のシンゴくん(fbでは紹介したが慶応SFCのプロジェクトでキンシャサのコンゴの教員大学の学生に昨年春から日本語を教えている)のおすすめの本で、コンゴとはまったく関係ないが、とても面白かったのでついでに紹介。中身はイスラエルの秘密諜報部(モサド)のスパイとしてナセル政権下のエジプトで暗躍したスパイの回想録。ドイツ人の大金持ちで、馬の育種家という名目で1960年ごろエジプトに入り、エジプトの政府高官や警察幹部、公安のトップなどとも親交を結び、第三次中東戦争でイスラエルによるシナイ半島占領の重要なきっかけをつくった人物の暗躍ぶりと、逮捕、裁判、投獄、釈放にいたるまでがじつに生々しく、しかもユーモアたっぷりに書かれている。

 
 
 
ナセル革命後のユダヤ人の事情や、ナチのエジプトでの位置などが手に取るようにわかり、また当時のエジプトの監獄事情などもわかってすごく面白かった。こんな本があることさえ知らなかった。本人が書いているので脚色はしてあるのだろうが、彼がだましたエジプト人高官の写真も載っていて、おい、だいじょうぶなのかといいたくなる。エジプト好きはぜひ読んでみてください。というか、もうすでに知られているのかな。そういえば数年前、エジプトのアハラーム紙に、モサドが長年追っていた元SSの将校が、カイロの下町で亡くなったという記事を読んだことがある。彼は身分を隠してイスラム教徒としてエジプト人の妻をめとり、息子ももうけ、下町で細々と暮らしていたという。家族は父親の正体をまったく知らなかった。どうして、そんなことがありえたのか、この本を読んでよくわかった。


 
 
ああ、長くなってしまったな。。。ネット環境があまりよくないうえ、ココログが重いのでなかなかアップできません。


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