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HUG ME, I'M PAKI (ハグして、私パキよ)

ふだんは夜明け前の薄靄みたいな死にそうな音楽をかけていることが多いのだけど、ときどき発作的に対極的な音楽を聞きたくなる。PerfumeやLady Gagaもそうなのだが、今年はアゲアゲ系の元気のいいトランスっぽい曲がマイブームだ。そういう音楽は最近はEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)というらしい。クラブとか野外フェスとかでかかる元気のいい音楽だ。(クラブというところには10年ほど前に行ったことがあるのが、じつはひそかに自慢である)。


中でも、今年の春頃に来日したKREWELLA(クルーウェラと読む)という3人組DJユニットが気に入っている。クルーウェラはシカゴ育ちのゴージャスな2人姉妹と、ちょっと気の弱そうな「レインマン」という男からなり、姉妹で来日したときには朝の「スッキリ」というテレビにも出ていた。ゴージャスなんだけど、とても素直でいい子たちだったので、ますますファンになり、一時期は朝から晩までクルーウェラでアゲアゲだった。


PVを見ると、姉妹はどう見てもアラブ・中東系の濃い顔立ちをしている。調べてみたら、髪の長い、ヘッドバンキングするお姉さんの名がジョハーン・ユーサフで、髪の短いボーイッシュな感じの妹がヤスミン・ユーサフだという。なるほど。さらに調べてみたら、お父さんがパキスタン人、お母さんはリトアニアとポーランドとドイツの血をひいているという。 つまりハーフ・パキスタンの姉妹なのだ。


 


EDMはコンピューターとセンスがあれば自宅でも曲を作り込めるし、ネットをつかえばどこにでも配信できるので、グローバル化がすすんでからアジアや南米、中東、アフリカなど世界中からアーティストやDJが登場している。エジプト人の二人組で世界各地のイベントで活躍しているアリ・アンド・フィラというデュオがいるのだが、彼らはカイロやピラミッドを舞台にしたPVをつくっている。ちょっとヘンな感じもするのだが、時代は変わったなあと思う。

  


 


それはさておきクルーウェラだ。その音楽に民族性が反映されているわけではないし、シカゴ育ちの彼女たちではあるが、本名で活動している彼女たちにとってパキスタンやイスラームというバックグラウンドはどのように意識されているのだろう。


ネット上で見たインタビューによると、パキスタンの父の家族のもとを最後に訪れたのはもう10年ほど前だが、パキスタン出身であることは自分たちの誇りであり、そのことはつねにアピールしたいと答えている。シカゴでもパキスタンから出てきた従姉妹といっしょに暮らしていて、ボリウッド産映画を観て、ふだんはパキスタン・フードをつくって食べているという。


一方で、パキスタンのネットフォーラムには、タリバーンが見たら卒倒しそうな格好でパフォーマンスをする彼女たちにたいして、ムスリムとして恥ずかしいという意見もあったり、それとは対照的に、これまでのわが国の女性のロールモデルを刷新してくれたという若いパキスタン女性からの意見もあった。


そのクルーウェラが今年の7月、毎年夏にベルギーで行われているトゥモローランドという世界最大級のミュージックフェスティバルに参加したのだが、そこでドキッとさせられるような光景を目にした。


このトゥモローランドというフェスは、3日間で30万人以上を動員し、10万枚のチケットが1秒で売り切れるという、とんでもないフェスティバルだ。規模も途方もなく大がかりで、たった3日間のために、広大な敷地にディズニーランドかと見紛う幻想的な舞台装置をつくりあげる。その記録は毎年編集されて30分ほどの動画として公開されているのだが、これを見ればそれがどんなに手の込んだものかがよくわかる。2014年度版も公開されている。


 

自分も若かったら行ってみたかったなあと思ったりもしたが、今だからそう感じるのであって、実際に若いときは、こういう明るさに反発したり、疎外感をおぼえていたりしたから、行きたいなどとはけっして思わなかっただろう。そう考えると、なんか切ない。ここには自分の生きられなかった明るさが眩しいほどにあふれだしている。もし自分が自分でなくて、しかも若かったら、こういうのに行ってみたかったなあという、なんだかややこしいノスタルジーを感じるのだった。


話を戻そう。このトゥモローランドでのクルーウェラのステージで、ドキッとさせられるような場面があったと書いたが、それがこれである。

Johaan_2014

 


お姉さんのジョハーンが着ている黒いTシャツに「HUG ME, I'M PAKI」(ハグして、私パキよ)と書かれ、パキスタン国旗の三日月と星があしらわれている。一方で客席では、イスラエルの国旗柄の巨大な斧やハンマー型の風船が、歌っている彼女たちの前でふりまわされている。なんとも微妙な象徴的風景だ。もちろん、イスラエル風船をふりまわしている観客もファンなのだろうが、アゲアゲの盛り上がりの中でのこの対照は非現実的だった。おそらく動画の撮影者もそのコントラストを意識してカメラをまわしていたのかもしれない。


というのも、このステージが行われたのは7月の下旬だ。7月下旬といえば、イスラエル軍によるガザへの激しい空爆が行われていた時期だ。結果的に2000人以上のパレスチナ人の命が失われたこの空爆のさなかに、このイベントは行われていた。パキスタンでも、各地でイスラエルのガザ空爆に対する反対デモが行われていた。彼女たちがそのことを知らなかったとは思えない。

ネット上で見たかぎり、彼女たちは政治的な発言はいっさいしていない。「HUG ME, I'M PAKI」のTシャツを着た理由についてもなにも語っていない。だからその意図はわからないけれど、白人中心の(しかもこの手の音楽イベントにはイスラエル人がけっこうたくさん来る)このフェスティバルで、あえてこの時期に、このシャツを着た彼女になんの思いもなかったとは考えにくい。


PAKIとはもともとは宗主国だった英国人による一種の侮蔑を含んだ言葉だ。ちょうど日本人のことを欧米人がJAPというのと似たようなニュアンスがあるが、パキスタン人だけでなく周辺のインドやアフガニスタンやバングラデシュなどの南アジア系の人たちから、ときにアラブ人までをひとからげにした呼称でもあるらしい。要するに、欧米人の南アジア系の人たち全般に対する、偏見にもとづいた呼び方である。そのTシャツをハーフ・パキスタンである彼女があえて着て、その前でイスラエルの斧型風船で彼女らを鼓舞する観客。真夏の夜の夢のようなイベントならではの、皮肉なのか、冗談なのか、あるいはシリアスなのかわからない現実感の希薄な光景だった。


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