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経済学者ロレッタ・ナポレオーニのイスラーム国(IS)分析

ちょっと前になってしまったが、10月下旬にイタリア文化会館で経済学者のロレッタ・ナポレオーニの講演を聞いた。テーマは「テロ組織の資金調達 グローバル経済における新しい方法」というもので、IS(イスラーム国)を例にあげて分析する、というものだった。


ロレッタ・ナポレオーニは、欧州でグローバリズム批判の立場に立つイタリアの経済学者。主著の一つ、Rogue Economics (2008)(邦訳『ならず者の経済学ーー世界を大恐慌にひきずりこんだのは誰か』)は、ソ連が崩壊し、東西対立が終結した1990年代以降、民主化運動とともに世界中に広がっていった犯罪的でグレーな経済を、ならず者経済と名づけて分析した快著だ。


ならず者経済とは、たとえば東西対立の終わりとともに旧ソ連圏から西側に流入したおびただしい売春婦らを搾取する仕組み、違法漁業、コピー商品の濫造、企業レベルで行われる奴隷労働による搾取など。グローバライゼーションによってならず者経済が拡大し、「民主主義と奴隷制が互いに支え合って盛衰をともにする関係」が作られたと彼女はいう。一見、相反するように思える民主主義と奴隷制はじつは正の相関関係にあるというわけである。

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講演は、こうしたならず者経済の視点をふまえて、イスラム国の台頭の経済的背景を分析したものだった。ナポレオーニは、ISとアルカイーダやタリバーンなどのそれまでのイスラーム主義勢力とのいちばん大きなちがいは「国家運営をしている」点だという。他国からの資金提供を受けて、それを資金源としている武装組織とはちがい、国家を運営することで資金を自前でまかなう仕組みを作ったことだという。


それが可能になった背景には、冷戦以後の多極的無秩序があるという。現代の戦争は、かならず他国の資金提供のもとに行われる複雑な利害のからんだ代理戦争の体をなしている。冷戦終結以後、その構造はいっそう込み入ったものになり、とくにシリアについてはロシアや中国もからんでいることから西洋が介入しにくい状況がつくられた。そこにつけいって領土を確保したのがISであった。ナポレオーニによれば、冷戦以後にできあがった多極的無秩序という状況に、西洋世界がもはや対応できなくなった。逆にその空白にうまく適応したのがISだったというのだ。


むろん、そこで獲得したダムや油田や銀行は略奪したものなのだが、ISにとってもっとも大きな収入源は農業であるとナポレオーニはいう。領内の農民と契約して穀物の大部分を買い上げて、それをイラク政府に売っている。また、原油もシリアの部族たちと契約してシリア政府に売る仕組みを作っている。さらに武装勢力の武器を回収して、それを他の武装組織に転売をしている。収税の仕組みもある。このようにしてスポンサーをあてにすることなく、国家の運営によって資金をまかなえる仕組みを作ったところがISのユニークな点だという。それは土地の人びととのコンセンサスや商取引に基づく一種の「ジョイント・ベンチャー」のようなものだとナポレオーニはいう。


ISの国家予算はこの夏頃のCIAの概算では20億ドルほど。PLOが80-120億ドルあったのに比べるとたいした額ではないが、それでもGDP換算すれば隣国のヨルダンより高い。ただナポレオーニは、CIAの20億ドルという概算は低すぎ、少なくともその倍の40億-50億ドルはあるだろうという。あるインタビューの中で、彼女は、9.11以前でも、いわゆるテロ組織の資金の3分の1は「合法的な」ビジネスから生み出されていたというが、その割合はISの場合、さらに増しているという。なにをもって「合法」とするかはむずかしいところだが。


くりかえしになるが、米国型の新自由主義にもとづく新世界秩序が、現実の世界に対応できなくなっている。そのすきまに生まれてきたのがIS。グローバリズム批判の立場に立つナポレオーニは、ISをきわめて危険な現象だとしながらも、冷戦以後の多極的無秩序の中から彼らのような存在が生まれてきたことを理解することが必要だと述べる。


経済や世界秩序という立場からISをとらえた話は新鮮だったので、「ヨーロッパでは、あなたのような見方をする人はほかにも多くいるのですか?」と訊ねた。彼女は「けっして多くはありません。ポリティカル・コレクトネスの立場からすれば、ISはならずもの国家といわざるをえないですから。でも、国家運営によってそこにいる人たちが利益を得られるシステムとして、それが出てきたことについては冷静に見るべきでしょう。もっとも国家とはいっても、それは近代以前の17-18世紀頃の時代の国家に似ているかもしれない。コンセンサスを得た上で、国家運営によってそこにいる人たちが利益を得られる仕組みがあるならば、それは認めてもよいのでは。敵と戦うためには敵を知らなくてはならない。実態を見ようとしなければフランケンシュタインをつくってしまう。それはブッシュがやったことであり、それをくり返すべきではない」というようなことを答えてくれた(メモと記憶なので不正確かも。。)。


地元民とのコンセンサスといった点については疑問もあるし、あとで彼女の本を読んで、グローバリズム批判のためにイスラム金融や中国経済をある意味、理想化しすぎている傾向も目についた。ただ、今回の話はあくまで経済ベースのことなので、人権状況や独裁や専制についての言及がないのはしかたないのかもしれない。もうすぐ出るのか、出たばかりなのか、彼女の新刊 Loretta Napoleoni「The Islamist Phoenix: The Islamic State and the Redrawing of the Middle East」でそのあたりのことも、くわしく述べられているようなので、そのうち読んでみようと思う。

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

田中真知さま

 興味深い講演会とその著書の紹介、有難う御座います。
 しかし、貴方が不親切な所為か、怠け者の所為か、或いは多忙のため時間が無かった所為か、掲載された(10月の標記講演中と推定される)写真にキャプションが付されていないのが残念です。
 で、確認のために書き込みます。

 この日付けブログに付された肖像写真には、合計2名の人物が写っています。そのうち、右側に位置して居るのが講師のロレッタ・ナポレオーニですね?それでは、左側に位置している人物は誰ですか?
 そもそも、この写真は標記の講演会場で、講演当日に撮影された講演風景ですよね?

 再度繰り返します。こうした講演会の感想などを公開される際の会場写真には、予め説明書きが付けられていると大いに助かります。
 ご返信を期待しております。お元気で。

投稿: Yozakura | 2014年11月17日 (月) 23時34分

ご指摘ありがとうございます。
講演の日付は2014年10月20日です。
写真右の人物がおっしゃるとおりナポレオーニさんです。左の人物は通訳を務められたイタリア文化会館の方です。名前は失念いたしました。

投稿: 田中真知 | 2014年11月18日 (火) 08時51分

田中さま
 返信を拝見しました。解説、有難う御座います。
 少し時間を空けて書き込みしております。

 私が質問した意図は、掲載された写真中の人物2名の雰囲気が、どうみても、
「右の人物が、会場の雰囲気を窺い慎重に間合いを測る通訳、左の人物が、聴衆に向かって横柄な態度で講演する講師」
 としか見えなかったからです。

 田中さんの説明に拠れば、左側の人物が氏名不詳のイタリア文化会館の公務員で通訳を務めたそうですね。この態度は、どうみても、講演者を差し置いて、自説や自分の主観を聴衆にアピールしようと試みているとしか、思えないのです。
 もっと云えば、講師はもとより、質問する聴衆も品定めして、質問者の意図や思想背景をも探ろうとする雰囲気が、この通訳氏の全身から漂っているのです。

 それ故に、貴方に質問した次第です。お元気で。

投稿: Yozakura | 2014年12月 6日 (土) 20時06分

田中真知さま

 興味深い講演の紹介に、会場で撮影した写真の掲示、有難う御座いました。先日の2回目の投稿ですが、再度、私の質問の真意を説明させて下さい。

 掲載されました会場内の講演写真ですが、この写真を拝見する限りでは、講師と通訳の関係が逆転している印象----飽く迄も、主観的な印象ですが----を受けるのです。

 これは講演会ですから、演題に就いて語る講師本人が飽く迄も主役であり、その講演内容を別の言語に転換する通訳は、何処まで働いても、その講演者の補助役に過ぎない筈です。詰まりは講師が主役であり、通訳は脇役に過ぎないのです。
 ところが、この写真を観察するだけでも、この通訳氏に「自分は脇役に過ぎない」と云う職業意識、と云いますか、職業倫理が何処にも見えないのが明白です。

 職業上の倫理感を欠いた通訳が、何故に、こうした微妙な話題の講演会で通訳を担当したのか、大いに懸念される点です。

 この1年、面白い話題の提供、お疲れ様でした。良いお年をお迎え下さい。

投稿: Yozakura | 2014年12月30日 (火) 16時08分

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