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中田考『私はなぜイスラーム教徒になったのか』のための、もう一つの解説

イスラーム学者のハッサン中田考さんの新刊『私はなぜイスラーム教徒になったのか』(太田出版)が出た。中田さんが自らの人生を振り返りつつ、イスラームとはなんであり、ムスリムであるとはどういうことなのか、イスラームを通してみた世界がどのようなものなのか、といったことについて平易に語ったものだ。

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インタビューと構成は私が担当した。その立場でいうのもなんだが、イスラームについて知らない人にも、あるいは知っている人にとっても、それまでのイスラームや、イスラーム世界についての見方を見直させるような刺激的な発見が少なからずあると思う。


前にも書いたが、中田さんと知り合ったのはカイロに住んでいたときだった。湾岸戦争の前で、かれはカイロ大学に籍を置いて博士論文を書いていた。それまでイスラーム関係の本を読んでも、そこに書かれていることと実際のイスラーム世界やイスラーム教徒の現実とがなかなか一致せず、もどかしく感じることが多かった。しかし、中田さんに、それが一致しないのは当然である、なぜならいまイスラーム国家などどこにも存在しないし、イスラーム教徒自身もイスラームがわからなくなっているのだからと聞いて、なるほどと思った。


では、そのわからなくなっているイスラームとはなんなのか、ということでカイロで幾晩にもわたって話をうかがった。それは刺激に満ちた時間だった。とはいえ、それは共感というより、そこに横たわる価値観のちがいに唖然としたり圧倒させられたりすることのほうが多かった。半ば身体化された西洋的な価値観に媚びないその「講義」をつうじて、それまで見たこともない世界の風景が目の前に広がっていく気がして、その新鮮な驚きを伝えたくてインタビューの一部を雑誌にのせたりした。


その後、エジプトではたびたび外国人をターゲットとしたテロが起こり、政府のイスラーム主義者への弾圧が強まっていく。パレスチナでは自爆テロとそれに対するイスラエルの報復攻撃という暗い連鎖がつづいていた。2000年代に入ると、9.11、イラク戦争、アラブの春、シリア紛争、ISの台頭と、拍車のかかるグローバル化の中でイスラーム世界はせわしなく揺れ動きつづけてきた。


そんな四半世紀を経て、ふたたび中田さんと話をする機会に恵まれた。冷戦の終結、湾岸戦争以降、イスラーム世界に何が起こり、かれ自身、どういうことを考えてきたのか、といったことについて、あらためて話をうかがった。それがこの本のもとになっている。


中田さんのイスラームについての見方に一貫しているのは、人はアッラーだけに隷属するものであり、それは逆にいえばアッラー以外のすべてのものから自由である、ということである。国家であれ教会であれイデオロギーであれ道徳であれ、人為的に生み出されたいっさいのものに人は隷属する必要はない。その意味で、イスラームは人間の本源的な自由を、きわめてラディカルに肯定する。


アッラー以外のものに権威を認めることは、なんであれ偶像崇拝にほかならない。問題は、そういうイスラームの本来的な姿から現実のイスラーム世界があまりに遠ざかってしまい、それを人びと(ムスリム自身もふくめて)がイスラームだと思いこんでしまっていることにあると中田さんはいう。


本の終わりに「ピラミッドのある世界とない世界」と題した長めの解説を書かせていただいた。その中にカイロ時代の中田さんへのインタビューを対話形式のまま収めた。また、中田さんの教え子のムスリムたちに師に対する忌憚のない意見を語ってもらい、中田さんという人物やその考え方が多角的に浮かび上がるようにした。


昨年末のISによる日本人人質事件にかんする記者会見などでメディアに取り上げられる機会も多かった中田さんだが、かれがどういう人物で、なにを考えているのか、ということについては、なかなか正確に伝わっていないように思う。この本が、イスラームとはなにか、また、イスラーム世界の抱える問題がなにかを知るきっかけとなるとともに、中田さんにまつわる誤解や偏見を解く一助となればうれしく思う。

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