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『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』を見た

ひとはなぜ写真を撮るのだろう。旅に出たとき、友だちと会ったとき、興味を引く風景に出会ったとき、多くの人が当たり前のように携帯やカメラのシャッターを押す。どうしてなのか。


むかしアフリカの田舎で「写真を撮ってどうするんだ?」と聞かれた。しばし答えにつまり、苦しまぎれに、家族や友人に見せるのさ、ここのことを教えてあげるんだ、といった。相手はいぶかしそうに、売ってお金にするんだろうといった。


ジャーナリストはよく、だれかがこの現実を伝えなくてはならない、だから写真を撮る、という。うそではないだろう。彼らにとって写真はお金を得る手段ではあるけれど、その根底に伝えなくては、という思いがあるのはほんとうだろう。


けれども、先日『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』(2014)というドキュメンタリー映画を観て、ひょっとしたら、伝えたいという思いよりも、もっと根本的なことがあるのではないかと思った。シリア紛争そのものについてではなく、別の観点から感じたことを書く。

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このドキュメンタリーは、アラブの春がシリアに波及した2011年の春、アサド政権に対して立ち上がった若者たちが2年以上にわたって自分たちを撮りつづけたドキュメンタリーだ。アラブの春の熱狂が去ったあと、シリアがどんな道をたどったかを見ていれば想像がつくように、映画の内容は重く、つらい。


若者たちーーその中心はシリアのユース・サッカー代表チームで活躍していたゴールキーパーのバセットという当時19歳の青年ーーは最初は自分たちの勝利を信じて疑わなかった。チュニジアやエジプトがそうだったように、シリアの若者たちも独裁政権を、非暴力的なデモによって倒せるにちがいないと信じていた。そんな仲間たちの様子を、友人のカメラマンがビデオで記録する。それは本来であれば、民主化を求める若者たちが独裁政権を倒して自由が勝利するまでを記録した幸福な青春のドキュメンタリーになるはずだった。

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しかし、ことはシナリオ通りには運ばなかった。政府軍は民主化を求める市民に対して容赦のない武力攻撃を加える。多数の犠牲者が出て、彼らの住むホムスの町は廃墟のようになっていく。にもかかわらず市民が虐殺されたこの街に、国連が送り込んだ調査チームはわずか6人。しかも、彼らは30分しか滞在しない。その間だけは政府軍の砲撃もやんでいる。視察チームが去った後、ふたたび攻撃が再開される。


冷酷な現実をつきつけられた彼らは平和主義に見切りをつける。反アサドの支援者から送られた銃を手にして、政府軍との武力闘争へと方向を転換する。しかし、政府軍の激しい攻撃によって、バセットの仲間たちは一人また一人と殺されていく。その様子をバセットの盟友のカメラマンのオサマが淡々と撮影し続けていく。

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隠れ家のソファで疲れて横たわる仲間を撮影しながら、オサマが「おまえが死んだら、この写真を追悼集の表紙に使ってやろう。そして『ろくでなしの戦士だった』と書いてやるよ」とジョークをいって笑うシーンがあった。幸福なドキュメンタリーになるはずだった記録は、いまやいつ死ぬかもわからない自分たちの遺影の撮影になっていく。


もちろん、それは伝えるための記録でもある。けれども、ひょっとしたら撮影データそのものが破壊されてしまうことだってある。実際、表に出ているよりも、はるかに多くの写真や記録がだれにも見られることなく破壊されたり、失われたりしたことだろう。


でも、たとえそうであっても、彼らは写真を撮りつづけるのだと思う。なぜなら、死の危険にさらされてなおカメラを回し続けるのは、他人に伝えるためというより、むしろ、自分たちのためなのではないかという気がしたからだ。


個人的感想にすぎないが、いつ死ぬかわからないような、すれすれの生の中にあってカメラを回すのは、自分たちが生きていることを確認するためなのではないか。不本意な偶然の生を強いられた者たちが、カメラを回すことによって、その生を、自分だけの、かけがえのない経験として、尊厳のある生へと変える。うまくいえないが、どんな状況になろうとカメラを回しつづけるオサマと、撮影されるバセットたちを見て、そんなことを感じた。この映画はとてもつらく、重い映画なのだけれど、見終わったあと、一条の救いの光のようなものを感じたのは、そのせいだと思う。


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