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性暴力と紛争鉱物とーー『女を修理する男』 

見終わった後、圧倒されてしばらく声も出なかった。コンゴ民主共和国東部においていまなおつづいている性暴力の現実と、それを止めるために献身的に取り組んでいるコンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲさんの活動を追ったドキュメンタリー映画『女を修理する男』(2015)という作品である。

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立教大学ジェンダーフォーラムが主催した紛争下における性暴力をめぐるプログラムとして上映されたもので、今年の10月から12月に全国9大学で上映される予定。ショッキングなシーンも出てくるが、たんに陰惨な現実を訴えるものではない。そこからなにをどう捉え、なにができるかといったことを考えるきっかけを与えてくれる、ある意味、希望すら感じさせてくれる希有なドキュメンタリーだ。ジェンダーや国際問題やアフリカや暴力や紛争などに関心のあるひとはもちろん、そうでないひとも、ぜひ見てほしい。


コンゴ東部では1990年代後半から2000年代初頭にかけてのコンゴ紛争をきっかけに民兵や武装勢力による性暴力が蔓延し、紛争が一段落した現在もなおつづいている。それだけ聞くと、戦闘でストレスや性欲をもてあました兵士たちが、村の女たちを襲っているのだろう、と思われるかもしれない。ふつうは、ついそう考えてしまう。


だが、ちがうのだ。そんな単純なものではないのである。ぼくもこのフォーラムで解説をされた立教の米川正子さん(元UNHCRコンゴ・ゴマ所長)の話を聞いて、あらためて気づかされたのだが、紛争下におけるレイプなどの性暴力は性欲とは関係がないのだ。では、それはなぜ行われるのか? それは性暴力が「武器」になるからである。


コンゴ東部ではレイプの被害者は1歳から80歳におよんでいる。被害者の中には相当数の男性もいる。しかも、レイプの方法も夫や子どもたちの前で妻や娘をレイプしたり、子どもたちの前で夫婦を脅して性行為をさせたり、幼児や赤ん坊を犯したり、性器を切り裂いたり、銃で撃ったり、と書いているだけでもおぞましくなるが、要するに、性欲にかられてレイプに及んでいるわけではなく、それは組織的な「戦術」としておこなわれている。いわば性的テロなのである。


では、その目的はなにか? コンゴ東部の場合、そこには鉱物資源がからんでいる。コンゴは携帯電話やゲーム機などに不可欠なレアメタルを豊富に産する。長年にわたるコンゴ紛争のおおもとの原因も、この鉱物の権益をめぐるグローバル需要にある。これらの鉱物資源の権益を得るために、国内外の複数の武装勢力が鉱山周辺のコミュニティを恐怖で支配し、弱体化させ、人口を減少させ、強制的に離散させる。そうした目的をもって組織的に性暴力が行われているのである。


性的テロはなによりも手軽だ。お金がかからない。しかも効果はてきめんで、相手に着実なダメージを与えることができる。女性の被害者は心身ともに傷ついたうえコミュニティから排除される。男性も深い心理的ダメージを追う。こうしてコミュニティは破壊されていく。いちばん問題なのは、こうした性暴力を取り締まる法律が最近までなかったため処罰もされなかったことだ。罪として認識されてこなかったため、性暴力の蔓延に歯止めがかからなかった。


国際社会はどう対応してきたか。これも歯切れが悪い。巨大な利権がからんでいるためにか調査そのものが中止されたり、ほとんど取りあげなかったり、コンゴに駐留するPKOもとくに性暴力に対して対策を講じることもないまま今日にいたっている。


このような中、性暴力を生き残った女性(サバイバー)を献身的に治療し、精神的にケアしてきたのがコンゴの婦人科医のムクウェゲ氏である。1998年にコンゴ東部のブカブに病院をつくって、これまでに4万人以上の性暴力の被害者の治療にあたってきた。ノーベル平和賞の候補にもなんどもあがっていて、今年5月の「タイム」誌では「もっとも影響力のある100人」に選ばれている。


映画はこのムクウェゲ氏の活動を追ったものだ。その活動は命がけだ。2012年にはニューヨークの国連総会で性暴力の実態についてスピーチすることになっていた。しかし本国の保険大臣からスピーチをしないよう脅迫された。スピーチを断念して帰国したムクウェゲ氏は武装集団に銃撃され、かろうじて一命を取り止める。いったんは亡命するが、地元の女性たちの帰ってきてほしいという声に押されて、2013年に帰国し、いまにいたっている。


2012年というと、ぼくがコンゴ河を旅していた時期だ。あのときはなかなかつながらないインターネットを通じてM23というコンゴ東部の反政府武装勢力がキサンガニをめざしているというニュースにふれて不安になったりもしていたが、ブカブではそのようなことが起きていたのだ。河を下る物資輸送船の中で出会った学生が「この国ではいいことをしたら殺されてしまう」と口にしたことを思い出した。


はじめに書いたが、にもかかわらず、この映画の底には希望が感じられた。およそ考えられるかぎり絶望しかない状況に見えるのだけれど、それでもここには希望があると感じられたのがふしぎだ。『女を修理する男』は2016年10月から12月にかけて、全国9大学(宇都宮大、岡山大、神戸外国語大、静岡県立大、上智大、同志社大、東京大、長崎大、早稲田大)で上映される予定。


コンゴの性暴力と紛争鉱物をめぐる複雑な背景については、立教での上映会でも解説された元毎日新聞ヨハネスブルグ特派員でいまは三井物産戦略研究所研究員の白戸圭一さんのこの記事が参考になる。コンゴ紛争の背景については白戸さんの『ルポ資源大陸アフリカ』(朝日文庫)や、米川正子さんの『世界最悪の紛争「コンゴ」』(創成社新書) が参考になる。コンゴ紛争や紛争鉱物についてもふれているが、紛争ばかりではないコンゴについても書かれた拙著『たまたまザイール、またコンゴ』(偕成社)も。


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コメント

こんにちは。

本筋じゃないところで、ちょっと気になる箇所がありましたのでコメントします。

レアメタルである「タンタル」を使ったコンデンサ(タンタルコンデンサ)は、他のコンデンサと比べ小型軽量であるため、現在では様々な電子機器に使われています。(値段はやや高い)

携帯電話やゲーム機だけではなく、パソコン、ウォークマン、ドローン(の制御回路)、高機能の電子レンジや炊飯器や血圧計など、あらゆる所に使われています。

元もとタンタルコンデンサがやり玉に挙がったのは、当時世界一の携帯電話製造会社だったノキアのことを気にくわないグループが、コンゴの人道危機に憤慨しているアクティビストに「ノキアが使っているタンタルコンデンサは、コンゴから違法に採られたものを使っている」という情報を流し、アクティビストたちは一斉にノキアを叩き始めました。(これ自体は一種の陰謀論なのですが)

そこから、コンゴのタンタルは「携帯電話」と「ゲーム機」だけがやり玉に挙がる状況になっています。(この貴記事でも具体的に取り上げているのは「携帯電話」と「ゲーム機」だけです)

叩かれ始めた当初ノキアは「タンタルコンデンサを使っているのはうちだけではない、世界中の電子機器メーカーが使っている」と反論しましたが、アクティビストは「だからといってお前(ノキア)がコンゴの紛争タンタルを使って良いことにはならない」と活動の手を緩めず、ノキアはかなりのダメージを受けました。

アクティビストの活動の結果、アメリカでコンフリクトミネラル(Conflict Mineral)のトレーサビリティ法案が可決され、電子機器メーカーは、自社が使用している部品の原材料産地を把握することが義務になりました。

「携帯電話」と「ゲーム機」だけをやり玉に挙げてもコンゴのコンフリクトミネラル問題が解決するわけでもなく、というより、世界中の電子機器メーカーがコンフリクトミネラルを避けるようになってきたため、コンゴで採られたタンタルが徐々に売れなくなり、コンゴはますます貧困に陥る。という悪循環がいずれ起こります。

田中さんのブログに噛み付いたところでどうにかなる話ではありませんが、ちょっと気になったものですから。

失礼しました。

参考:BS世界のドキュメンタリー「血塗られた携帯電話」http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=120307 

投稿: 天野才蔵 | 2016年6月 5日 (日) 11時56分

>天野さま

長いコメントをありがとうございます。この問題はとほうもなく複雑な背景があるので、話をかなり単純化して紹介しました。おっしゃるとおり、パソコンやさまざまな電子機器にもつかわれていますね。

白戸圭一さんは、ドッド・フランクル法で電子機器メーカーにコンゴの周辺国の紛争鉱物が使用されていないか開示義務ができたものの、70パーセントの企業がそれをトラッキングできなかった、とおっしゃっていました。末端が孫請けの孫請けのような中国の小さな工場になると追跡が不可能になるのだそうです。むずかしいですね。

投稿: 田中真知 | 2016年6月 5日 (日) 18時00分

現実面の末端での解決方法も大切だが 根の強い人間の歪んだ意識を変えない限り 同じようなことが繰り返される

投稿: keikoviva | 2016年6月 8日 (水) 12時42分

みんな言う 自分には何もできない どうしたらいいかわからない いやいや一人一人ができることがある!

投稿: keikoviva | 2016年6月 8日 (水) 12時45分

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