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『〈帰国子女〉という日本人』がおもしろい

STUDIO VOICEの元編集長で映像作家でもある品川亮さんの新刊『〈帰国子女〉という日本人』(彩流社)がでました。帰国子女というと「語学堪能だが人間関係の機微には頓着せず、理屈だけで物事を処理する人」とか「優秀だけど腹立たしい人」とイメージされやすい。しかし、「だから同調圧力や異質なものへの許容性が低い日本では帰国子女は生きづらい」といったようなありきたりな話になっていないところが、この本のおもしろいところ。

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タイトルからすると、何人かの帰国子女にインタビューしたルポルタージュを想像されるかもしれない。たしかに、インタビューや取材の成果は盛り込まれているが、それ自体が目的なのではない。この本は、自身、ペルーで少年期を送った帰国子女であった品川さんが、自分の経験をふりかえりながら、帰国子女というあいまいなものの正体をさぐっていった自伝的論考なのだ。といっても具体性に富んでいて読みやすく、ときに映画のように臨場感がある。リマの日本人学校や、帰国子女枠で入学した慶応義塾高校での生々しい経験など青春小説のようにひりひりする。これを読んだらけっして慶応義塾高校には入るものかと思う。


この本は帰国子女とはこういうものだというのではなく、帰国子女という類型化がどのように生じて、それはなにを意味しているのか、という社会学的な問いにむかって開かれている。「他民族、多言語国家だったら、マイノリティという概念はあっても、〈帰国子女〉という概念はなかったにちがいありません。多くの人たちが移民であるような社会では、あたりまえのことですが、外国で生活したということは何の意味も持ちえません」とあるように、帰国子女とはそれを概念化せずにはいられない日本の社会のありかたをあらわしている。帰国子女とは、われわれが無意識にもっている「日本」というあいまいな枠組みに気づくための手がかりなのだ、と本書を読んで思った。


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