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シャルギー(東洋人) イラン制作による井筒俊彦氏の生涯のドキュメンタリー

米国によるイラン制裁が再発動された昨日、東京イラン映画祭で、東洋哲学者、イスラム学者、井筒俊彦氏の生涯を追ったイラン制作のドキュメンタリー「シャルギー」を見た。井筒氏と親交があったり影響を受けたりした日本、イラン、欧米の数多くの学者へのインタビューをまじえたドキュメンタリーなのだが、よくこれだけ細かく濃密に取材したものだ。取りあげられているエピソードは井筒氏の著作や、作品にも登場する若松英輔さんの本などにも出てくるものが多いが、それでもインタビューと映像をまじえて、これほど質の高い作品になっていることに驚いた。

Tokyoiranfilmfestival1


各インタビューのカットが短くてつながりがわかりにくいとか、ときどきバックに流れるイラン風の「さくらさくら」のアレンジが仰々しいなど気になる点もあったが、たんに井筒氏を知の巨人として賞賛するのではないつくりになっているのがよかった。黒田嘉郎さんが井筒さんにイランに行けといわれて、「本当は行きたくなかったんだけど、あの方は怒ると怖いから仕方なく行った」と話す一方、イラン人学者の奥さんが「イヅツが怒るのを見たことがない」といっているのもおかしかった。


ときどき「これは今回初めて公開される映像である」という思わせぶりな断り書きがあって出てくるのが、プライベートで撮られたらしい変哲のない8mmフィルムであったりするのもよかった。「今回初めて公開される・・」といってイランで井筒氏に支払われていた給料や住居費について記した手紙が大写しになるのもよかった。


井筒氏は、東西の膨大な思想・哲学・宗教をその言語テキストから分析し、とくに東洋哲学相互の比較を行ってきた、しかし、異なる宗教思想の類似性を見出して、そこを手がかりに普遍性につながろうとすると、下手をすると、とてもありきたりなものになりかねない。この映画の中でも日本のお祭りの御神輿と、イランで輿をかついだイスラムの祭礼の映像が相互に映し出されるシーンがあったが、たんなる表面上の類似から両者のつながりを指摘するのは、いわゆるあたりさわりのない「宗教間対話」と変わらず不毛である。


作品中でもだれかが、西洋が「古代ギリシア」といった共通の基盤をまがりなりにも持てたのに対して、東洋はバラバラすぎて、そうした後ろ盾がないと述べていた。それを井筒氏はスーフィズムや唯識の意識論といった個人的・内面的なところに求めた。たしかにそれらは高度に洗練された世界で、哲学的な普遍性はあるかもしれないが、それはあくまで個人的なものなので、人と人をまとめあげる力にはなりにくい。


井筒氏がイラン革命によって帰国してから発表された著書は、そうした「精神的東洋」をイスラム哲学や神秘主義の内に見出そうとしたおそろしく切れ味のよいものだったけれども、井筒さんの本に書かれていることを期待してイスラム圏に旅すると、ありゃ?と思うことばかりだったりする。考えてみればあたりまえで、井筒氏が関心をもって取りあげていたイブン・アラビーとかスフラワルディーは800年以上も前の、しかも筋金入りの神秘主義者なのだ。


やはり作中で、井筒氏の仕事にとって第二次世界大戦というものが彼が仕事をしていくうえでとても大きかった、というようなことをだれかが述べていた(インタビューのカットが小刻みで覚えていられない)。タタール人のアラビア語の師や、大アジア主義を唱えた大川周明との交流などもあって、その大アジア主義を比較哲学というかたちで実現していくのが井筒氏の仕事だったといえるかもしれない。


でも、一方で、イラン革命は彼にとってどういうものだったのかがわからない。今日にいたるイスラム世界の変動をもたらしたエポックとなった事件のひとつはイラン革命だったと思うのだが、それについて井筒氏がなにを発言したり考えたりしていたか寡聞にして知らない。少なくともそれは個人的・内面的なアプローチだけで語れることではないだろう。作中、日本人の研究者が「もうすこし政治についても語ってほしかった」と述べていたが、政治的なことや、イスラムの法学的なことについて井筒氏はほとんど語っていないのではないだろうか(ひょっとしたらちがうかもしれない)。

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イラン映画祭、8/9まで。なんと無料! シャルギーは8/9の午前中にも上映されます。


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