あひる商会トーク・小松義夫「曲がったことが大好き」はこんなかんじでした
写真家の小松義夫さんの話にはいつも魅せられてきた。もちろん世界中で撮影されてきた、とんでもなく不思議な家の写真の数々もすばらしいのだが、小松さんとしゃべったり飲んだりしたときに出てくる家を訪ねる旅の道中の話がとほうもなくおもしろい。このおもしろさをぜひ多くの人と共有したくて企画した神田楽道庵でのあひる商会トーク「曲がったことが大好き」(2018.11.18)だったが、やはり圧倒的におもろしかった。あの場にいられた方たちは本当に幸運だった。異論のある人はいないだろう。
小松さんの語りは、曲がりくねっている。テーマを決めて、役に立つ知見などもちりばめ、結論めいたものをまとめあげる、というようなもったいぶったものではまったくない。かといって、べらんめえだったり、教訓やひとりよがりな哲学とも無縁だ。淡々と、素直に、謙虚に歩いているうちに、いつしか脇道にそれ、同行者や随行者が増え、思いもよらない、自分では想像すらできなかった気持ちのよい、とんでもないところへ連れて行かれてしまう。旅でいちばんおもしろいのは、そういうときだが、小松さんの取材の旅はそんなエピソードにあふれすぎていて、語りもまたそうなのだ。
ガーナに取材に行ったとき60年前に第二次大戦でイギリス軍に編入されてビルマ戦線につれていかれて日本軍と戦ったというガーナ人のおじいさんと出会った(ガーナ人が日本人と戦っていたというのもびっくりだ)。ガーナ人の彼は日本軍はやられてもやられても向かってくるので「日本人というのはなんなんだ?」とショックを受け、戦後ガーナに帰国してからも気になって、英語の新聞でHirohitoというのが出くると切り抜いてスクラップしていたという。そうやって60年以上気になりつづけていたところに小松さんが現れた。ガーナ人の彼は狂喜した。60年なぞだった日本人が目の前にいる! ひとしきり、彼にヒロヒトのスクラップを見せられたあと、小松さんがバスに乗って帰ろうとすると、そのおじいさんが後ろから走って追いかけてきて、「日本人、なに食うんだ?」と叫ぶので「米!」と返すと、飛び上がって喜んでいたとか。
40年以上「家」を撮影されてきた小松さんにとって、家というのは、気候や生活の変化などによってたえず変化していて、家を見るということは、そうしたさまざまな変化の中で、自分たちがいまどういうところに生きているのかを確認することにつながるという。とても、この夜の話のおもしろさは紹介しきれないので、またいつか企画します。来られなかった人はぜひ。
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