あひる商会ライブ「中東・ユダヤ音楽の夕べ」報告
昨夜のあひる商会イベント、辻圭秋さんの「中東・ユダヤの音楽の夕べ」、参加してくださったおおぜいの皆様ありがとうございました。これほど深い内容のレクチャーをまじえた生演奏は類がなく、こういう企画は民族音楽のライブでもおそらく他にはないと思います。懇親会もいろんな方がいらっしゃっていて、大いに盛り上がりました。
ユダヤ音楽というと、スメタナのモルダウの旋律とか東欧系の音楽のイメージがありますが、辻さんによると一枚岩のユダヤ音楽という実体はないといいます。辻さんがエルサレムの音楽院で学んだのは、実際に存在するのは「ユダヤ音楽」ではなくて、イラクのユダヤ人の音楽、トルコのスペイン系ユダヤ人の音楽、イエメンのユダヤ人の音楽などであったといいます。彼らはユダヤ教徒である前に別の文化を持っています。
しかし、ヨーロッパ人を中心としてつくりあげたイスラエルという国家では、国家イデオロギーとして西洋古典音楽をベースとした音楽というのがつくりあげられていき、それが「ユダヤ音楽」としてアピールされてきた。しかしそれはエスニックな雰囲気はあるとしても基本的に西洋音楽であるといいます。
80年代ころに流行した「ワールドミュージック」も基本的に西洋音楽の調性にのりやすい旋律を採用していて、エスニックな響きはあるものの中途半端なものだったといいます。ひとつには中東をはじめ各地の音楽には西洋音楽の調性に乗らない微分音という音があり、ワールドミュージックでは、これが排除されていた。つまり微分音をなくすことが近代化だった。
ウードとネイ(斜め笛)とサズと歌によるさまざまな背景を持つユダヤの音楽の演奏、そして高度で深い歴史や宗教の内容を含んだおそろしく濃密な話でした。ひとつの言葉の背後には関連した膨大な歴史的内容が芋づるのようにつながっているので、いちいちそれを説明してもらおうとすると、それだけで終わってしまいそうになるので流すことにしました(笑)。中田考さんとの話になると、さらにディープになっていく。。。
私も含めて、ときどき置いてけぼりにされながらの話だったかもしれません。しかし、世界にはわからないこと知らないことがたくさんある、どこまでいっても世界は複雑でよくわからない、でもそれが面白いという思いを新たにしたイベントではなかったかと思います。
「わかりやすさ」をめざすと微分音を排したかつての「ワールドミュージック」のようなものになりかねませんが、辻さんの話はあえて自分たちが「なにをわかっていないのか」、「わかること」よりも「わかっていないことが、なにかわかる」ことのほうが面白いということをつきつけてくれる貴重な話でした。
お手伝いくださったあひる商会オーロラ部長、みあげる部長、すごいひと君ありがとうこざいました。
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