定額給付金による補填+王道進行の話
負けてしまった。更新が遅れてマイナス一万円である。まあ、昨今の金融危機に比べればたいした損失ではないし、もうすぐ定額給付金とかで一人あたり1万2000円もらえるそうだ。じつにありがたい制度であり、政治家というのはやはり賢い人たちだなあ……などと思う人が本当にいるのだろうか。
政治の話などしたくないのだけれど、アメリカでオバマが大統領になるという、ちょっと前まで想像もできなかった現実が起きているというのに、日本では金のばらまき政策が真剣に議論されている。いったい、一人1万2000円もらって、なにが変わるのだろう。冗談ではないのか。国民一人に1万2000円あげることで、いまの日本社会を覆っている数え切れない矛盾や問題の、いささかの解決にでもつながると本気で政治家は考えているのか。
いやいや、政府というのはありがたいねえ、1万2000円ももらっちゃったよ、どうやって使おう。やはり貯金しようかしら、それともユニクロで家族みんなの分の冬物でも買おうかしら、それともデニーズで豪遊しちゃおうかしら、でも、そんな贅沢しちゃバチが当たるわね。それにしても、さすが優秀な政治家は国民のことを考えてくれているのね、日本に生まれてよかった……なんて思う人が、ほんとうにいるのだろうか。
たとえば、多額の負債を抱えて自殺しようとしている中小企業経営者のもとに1万2000円がふりこまれたら、彼は自殺を思いとどまるのだろうか。仕事が見つからず、ネットカフェで寝起きしている人が1万2000円給付されたら、よし明日も頑張ろうと生きる希望が湧くものだろうか。
いったい、この政策が施行されたとして、1億2000万人のうち、どのくらいの人が、ああ、よかった、ありがたいことだと思えるだろうか。もちろん、政策とは危機的状況に対処するためのものばかりとはかぎらない。けれども、なぜ、いま、この時期に焼け石に水以下のばらまきなどという発想が出てくるのだろう。わからない。
思うに、いまの日本が抱える深刻な問題は、将来に希望が見えないことだ。自分がいま歩いている道が、なにか、より確実で、自由なものにつながっているはずだという予感があれば、ひとは、たとえいまがつらくたって、歩いていこうという勇気を持てる。
今日一日を充実して生きるのに必要なのは、今日の糧だけではない。意識的であれ無意識的であれ、今日のあとに明日があり、その先に未来があると思えることが大切なのだ。けれども、ぽんと1万2000円もらったからといっても、そんな希望が見えるだろうか。せいぜい一人ギャンブルの穴埋めをするのが関の山である。それだって、この先ぼくが負け続けて負債がふくれあがったら、そうもいかない。
一人1万2000円といえば全国民なら1兆5000万円くらいになる。たしかに中途半端な額かもしれない。でも、これだけの予算があれば、たとえ国民全員をどうにかすることはできなくても、なにかの制度やシステムを変えて、山積する問題の一つや二つを解決することは、頭を使えばある程度、できるはずである。そのための政治家ではないのか。都市部の救急医療システムを改善するとか、母子家庭の支援を充実させるとか、年間3万人を超える自殺者が出る状況を本気でなんとかするとか、いくらでもあるだろう。ばらまきというのは、いちばん頭を使わなくていい、しかも、失敗しても責任を問われない、もっとも下らない金の使い方である。
ガンで亡くなった筑紫哲也さんがネットで最後に語っていたのが、この国はガンに冒されているということだったそうである。ガン細胞は、本来宿主が必要としている栄養分を吸い取ってしまう。そのため宿主である本人には栄養が十分いかず衰弱していく。今回の給付金制度というのも、同じようなものではないか。必要なのは、宿主つまり人びとが希望が持てるような社会システムに栄養を与えることになのに、そっちに栄養は与えず、いまの状況を固定化するほうに金をつぎ込もうとしている。だが、ひょっとして、それは浅はかな見方で、じつは、そこにはじっくり考えぬかれた深い意図でもあるのだろうか。ワカラナイ、ワカラナイ。頭から煙が出そうである。
暗くなるので話題を変えよう。前回の話の続きである。前回、音楽には文化的背景を含めた〈気持ちいい展開〉という暗黙のルールが存在し、同じようなメロディー展開をする楽曲はこの世に数多に存在する、という陶山さんの話を紹介した。その後、ニコニコ動画という動画サイトで、「音極道」という人が、J-Popのヒット曲に共通する音楽的構造について、みずからの演奏入りで解説しているのを知った。これが、たいへんおもしろかった。
前編・後編合わせて見ると25分くらいかかるが、演奏付きで、説明もていねいで、とてもわかりやすい。業界の人には自明のことなのかもしれないが、そうでないひとにとっては目から鱗が落ちる分析だと思うので、見て損はない。ちなみにニコニコ動画というのは登録制(無料)である。ただ、登録が面倒な人とか25分も時間がないという人のために、かんたんに内容を要約する。
音極道さんによると、J-Popの一部のヒット曲には、この30年以上にわたって使われつづけているコード進行のパターンがあるという。このコード進行はとくにサビの部分で使われており、これが日本人に特別に好まれてきたという。どういうものかというと、こんなコード進行である。
Ⅳ△7 Ⅴ7 Ⅲm7 Ⅵm
たとえばハ長調だと
となる。
楽器をやったことのない人にはぴんとこないかもしれないが、聞いてもらえばたいへん耳慣れた展開であることがわかる。彼はこの進行を「王道進行」と名づけて、このパターンを使ったいろんなヒット曲をとりあげ、最終的に、現在J-Popが陥っている危機的状況にまで話を展開している。
音極道さんがあげている王道進行のサビをもつヒット曲は、古いものから
オリビアを聞きながら/杏里(1978)
いとしのエリー/サザンオールスターズ(1979)
悲しい色やね/上田正樹(1982)
シーズン・イン・ザ・ワン/TUBE(1986)
世界でいちばん暑い夏/プリンセスプリンセス(1989)
など。わりと新しいものだと
LOVEマシーン/モーニング娘。(1999)
EVERYTHING/MISIA(2000)
FRAGILE/ Every Little Thing (2001)
さくら/ケツメイシ(2005)
などがある。動画にはもっとたくさんの曲があがっている。動画ではキーを同じにしたものが連続して演奏されており、聞いてみるとどれも驚くほど似ている。もっとも、ぼくがこの中でタイトルを聞いて曲が思い出せたのは「いとしのエリー」だけだった。いとしのエリーだと「わらって もっと べいべ〜え〜 むじゃきに おんまいまいん」というところが王道進行である。先の音声ファイルを再生しながら、いっしょに歌ってみると、よくわかるはずである。
彼は後編の動画で海外の曲における王道進行の使われ方にふれ、それが日本のポップスにどんな影響を与えていったか、そしてその濫用がもたらした弊害などにも論を進めている。ぼくはユーロビートというのがどんなものなのかすら知らなかったので勉強になった。
ひとりギャンブラー日記:
損益 −10000円
ただし、政府定額給付金(1万2000円)にて補填し、
差し引き残高 +2000円
次回は、ちまちました賭け方はやめて、ギャンブラーらしく少し太っ腹にいってみたいと思う。
一週間以内の更新に、どーんと……10万円である。
「へんな毒すごい毒」 韓国語版





















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