*脳内ウォークマン

旅行人読者の方もそうでない方もこんにちは。それにオリジナルCDを購入していただいた方、ありがとうございます。ご感想をくださった方は、よりいっそうありがとうございます。

日頃のご愛顧(?)に応えて、この部屋を借りて連載コラムを始めることになりました。「王様の耳掃除」というタイトルにはそれほど深い意味はないのですが、このコラムが音(音楽をふくむ)についてのものだということは、なんとなく感じてもらえますよね。いずれ音声ファイルを加えたり、いろいろやってみたいと思っているので、リクエストお待ちしています。

ところで家で仕事をしていると、いろんな巡回販売車がやってくる。やってくるだけならいいのだけれど、たいていスピーカーでバックミュージックを流す。パン屋は「バイオリンのお稽古」、灯油屋は「あったかと〜ゆだもんね」というCMソング。そのほかにも有機栽培野菜などを売る○マギシ、竿竹、焼き芋、生協、それに市や警察の広報カーなどが、それぞれにテーマソングを流しながらやってくる。

ぼくは昔からこの手の音が生理的にだめだった。いわゆる「聞き流す」ということができないのだ。しかも一度耳にした節回しが、耳の底に残像のように留まり、販売車が去ったあとも、「あったかと〜ゆだもんね、あったかと〜ゆだもんね」といったフレーズがエンドレステープ状態で頭のなかをめぐりつづける。

こうなると本も読めず、なにもできなくなる。必然性のない音を、それらを必要としていないひとにまで押しつけるのは、はっきりいって暴力だ。しかも、そういう不快な音にかぎって残る。

さらに困ったことに、いちど音の記憶が消え去っても、なにかの刺激で、いきなり頭のなかでアナウンスやテーマソングの再生がはじまることがある。まるで脳内に組み込まれた見えないウォークマンのスイッチを入れたみたいに。そのスイッチがどこにあり、いつどんな刺激で入るのか見当がつかない。そのうえ、このウォークマンにはストップボタンもない。

だれかと話をしているときにスイッチが入ってしまうのがいちばん困る。話題と何の脈絡もなく「脇見運転はやめましょう」といった放送が、突如として頭のなかで再生し始めるのだ。話をさえぎって、「すみません、いま交通標語が頭のなかに流れだしたので、ちょっと待ってください」ともいえない。深刻で孤独な悩みなのである。

そんなわけなので、会話の折に、こちらが突然ぼおーっとしていたら、「ああ、きっと灯油の巡回販売の歌が流れているんだな」とでも思って、やさしく見守ってあげてくださいね。


*後記

「王様の耳そうじ」第一回です。最近は、鈍感になってきたせいか、ある程度、聞きたくない音を無視できるようになった。それだけならありがたいのだが、覚えておきたい音や音楽まで忘れてしまうことがあるので困る。最近の灯油の巡回販売は、原油価格の変動が激しいためか、音楽に合わせて値段を連呼するパターンに変わり、ますます興醒めである。なお、冒頭のオリジナルCDというのは2001年に制作したもので、サイドバーから試聴コーナーに行けます。


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